ぐわん、ぐわんと頭が揺れるように痛い。

でも今日は終わりの日だから、ちゃんと仕事しなくちゃ。

そんなことを考えながら気怠い身体を起こして私はジャージに着替えた。



今日、私が担当するのは氷帝学園。
……私の兄がいるところ。

朝食は、食べなかった。
お腹が空かない。


「心愛、」
『……なんですか、兄様。』


距離を置きたくて、あえて昔からの呼び名ではなくて兄様と言った。

考えたくない。
この世界の人のことはもう考えたくない。

吐き気がする。


『何もないようでしたら、もう行きますね。では。』
「っ…!おい、心愛!」


アイスブルーの瞳が私をとらえる。
私を見て心配気に揺れる瞳。

私と同じ瞳をした彼。
髪の色も同じで、イヤでも彼と血縁なんだって自覚させられる。

イヤなのに。
跡部なんていらない。
世界が、自分が、恐ろしい。

憎くて、嫌いだった世界が、今ではとても恐ろしくて、

グラグラと世界が揺れる気分。


「お前、体調悪いだろ…」
『っ、』
「もういいから今日は寝てろ。」


そう言って、彼は私に背を向ける。


『や やめて、よ。お兄ちゃん面しないで!私を捨てたくせにいつまで家族面するの?体裁なんて私には関係ないんだから、ほっといて!』


ほっといて、そう。
私はほっといて欲しいの。

そのハズなのに。

なんで私から涙が零れるの?

私に背を向ける彼が、世界と被る。


私が置いていかれた。
私が置いていった。


本当は、どっち?





おいてけぼり



 
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