走って走って走って逃げて、その先には何があるんだろうー…?



トボトボとマネージャー室までの道を一人で歩く。
そういえば、今あの子はどこにいるんだろう?
ふと頭に浮かんであの子がいるはずの青学。
ちょっと見てみたい。あの子の無様な姿を見れば落ち着ける。
あの子の絶望した顔、憎しみに満ちる顔、苦しんでいる顔、マイナスの感情すべてが私の復讐心を満たしてくれる。
そう、それだけ。私を満たしてくれるのはそれだけなの。


『そ、ぅ、だよね…?』

「なにがやー?」

『っ!』


ポツリと呟くと、大きな声が聞こえた。
それにビクリと身体を揺らす。


「あー!やっと会えたわぁ!ずっと探しとったんやで!でもなぁ、全然会えへんかったわー。なんでやろうなぁ。」

『と、』

「金ちゃん、やろ?」


遠山くん、と言いそうになると、金ちゃん、は私を抱きしめて耳元で囁く。
私よりも小さいはずの遠山くんが何故だか恐い。怖がってたら進めないのに。復讐、できないのに。


「そういやなぁ、コシマエが心愛探しとったで!なんか用があったんかなぁ?あ!でも、今は行っちゃアカンで?今心愛はワイといるんやから!」

『だ、いじょぶです。行きませんか、ら。』

「ホンマか?心愛はすぐにどっか行っちゃいそうなんやもん!ワイそんなの嫌やわぁ…」


泣きそうな声色で言う遠山くんに罪悪感を覚える。
でも、すぐにハッとしてその罪悪感を打ち消した。
私に、罪悪感なんて必要ない。あったらいけない。

そう思うはずなのに、私の心の片隅には罪悪感があって、

どこまで行っても平行線な気がした。


『っ、き、んちゃ、離れてくださ、い!』

「?なんでや?」

『いいから!離れてください!』


そんなのイヤ。
私は復讐するために生まれたはずなのに。ずっと平行線なんて。

今、拒絶しないと。


『もう、やめてください!』

「っ、」


そうしないと、一生彼らから離れられない気がして、私は遠山くんの身体を引き離して、そのまま逃げた。


「…ワイから逃げるんか。」


だから、もう私の行動は遅くて、
後ろでそう呟いた遠山くんの瞳が狂気に染まっていたなんて知らなかった。





The world does not return anymore.



 
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