『っ、な、七坪く、』
「あー?あ、悪い悪い。」
意外にも七坪上総の走るスピードが速くて転びそうになる。
思わず名前を呼ぶと、七坪上総はそれに気付いたようで走るのを止めた。
この人は、なに。
なんで私を気遣うように二の腕を掴んだの?
一緒に走るだけなら手首でもよかったはず。でも、この人はわざわざ怪我をしている手首じゃなくて二の腕を掴んだ。
わからない、わからないよ。
『貴方は……なに、?』
「はぁ?なにって……ゾンビ?」
『っ!』
意味が分からない。
この人はなにを言っているの?
ゾンビ?なんで?
「あはは!んな、焦った顔すんなよ!冗談だって。じょーだん。」
『じょう、だん、?』
「ま、いーや。でさ、心愛チャンはこれからどうするの?何がしたいの?男侍らしたいの?それとも………復讐?」
七坪上総の言葉にゾワリとした私は急いで七坪の手を自分の二の腕から離そうと試みる。
でも、七坪上総は緩く私の二の腕を掴んでいるはずなのに全然取れなかった。
『な、やめ、』
「ヒビリすぎだよ。そんなヒビらなくてもいいじゃんかー。で、やっぱり復讐がしたいんでしょ?ねぇ、」
『だ、れ?貴方、誰?』
口をパクパクとしていた私がやっと出せた言葉はそれだけだった。
でも、その言葉と同時に七坪上総の口角は上に上がる。
笑いを堪えたくても堪えられないって感じだ。
「ふ、ふふ。そんなのいいじゃん別に。ほら、あいつらに復讐したいって言ってみ?ほら、ほらほらほらほら!!!」
『な、に?』
そう言って私に詰め寄る七坪上総は狂ってて、
私には、ただの恐怖にしかならなかった。
「ま、時間はあるしいいけど。」
『ぁ…』
「じゃ!俺はもう行くな!まったなー!」
そう言って走って言った七坪上総は普段の七坪上総に戻っていた。
ガタガタと震える身体を必死で両手で抱きしめる。
怖かった、なんてもんじゃない。
なにかが私に侵食するようにじわじわと来る。
やだやだやだやだやだやだやだやだ。
恐怖なんて忘れてしまえ。
認めてしまったら終わってしまう。
全てが崩れてしまう。
それはダメ。
私の存在意義を消すと同じ。
復讐は私の、私が生きる存在意義だから。
ねぇ、忘れないで。
私の生きる意味は?
『ふ、くしゅう、』
そう、それだけが私のいる意味。
それを確認すると同時に震えは止まってくる。
それにほっとすると私はまた涙を一筋流した。
そんな私を見て嗤っている七坪上総がいたなんて知らなかった。
My significance of existence.
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