「心愛はもう食べないの?」

『はい、お腹いっぱいなので…』


私の目の前には一口二口しか手のつけられていない昼食。
この合宿に来てから食欲がまったくといっていいほど出ない。
私は隣りに座っていた不二くんに一言断ると食堂から出た。

食堂から出たとたんに震えだす身体。
急いで誰もこなそうな場所へ移動する。

視線が恐い。
私に向けられるたくさんの好意の視線、それに憎悪。

なにより、まるで実験体を見るように私を見る無機質な視線。

誰がそんな目で見ているかまでは分からなかったけど、確かにそれはあった。

恐い。恐い。恐い…!

震える自分の身体を抱き締めながらその場に座りこむ。


「あの、大丈夫ッスか…?」

「……も、もしろくんと、かいどうく、ん?」

なんでここに…
ぼそりと疑問を声に出す。
別荘の裏なんて誰も来ないと思ったのに。


「調子悪いんスか?」

『っ、な、なんでもないです、』


私はそう言って立ち上がろうとする。
もう嫌。なんでいるの?
私を1人にさせてよ、


「でも、顔色が真っ青ッスよ?」

「医務室行ったほうがいいんじゃねぇスか?」

『っ、本当、大丈夫ですから。』


そう言って私は一歩後ろに下がる。
震える身体を誰にも見せなくない。


「でも、」

『ほんとっ、だいじょうぶですから……』

「桃城、心愛さんがそう言ってるならそっとしといてやろうぜ。」

『え…』


海堂くんの言葉があまりにも意外で思わず声が漏れる。
海堂くんも他の人たちみたいに無理矢理するのかと思ってたから。


「…そうだな。心愛さん、俺たち行くんで、えーっと、なんかあったら呼んでくださいね!」

『ぁ…』

「てめぇ!抜け駆けか!!」

「アァ?やるのかマムシぃ?」

「上等だコラァ!」

『ふふ…』


二人のやり取りに思わず笑みが零れる。
それは私が知っているものでなんだか懐かしかった。
二人が私を驚いたように見るので我にかえる。


『ぁ…ご、ごめんなさい!あと…ありがとうございます…』


本当にありがとう。
懐かしさを思い出したおかげで私の目的も思い出せた。
怖がってるヒマはない。
私をあの世界から殺したあの子に復讐しなくちゃ。


自分の心が泣いているのに気づかないフリをして私はまた、決意を固めた。






I shed a smile over nostalgia.



 
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