幸村Side

『なんで、幸村くんが泣いてるの?』


そんなのわからない。
俺はなんで泣いてるんだろう。
心愛に無理矢理口付けて、


「ごめん、」

『謝らないでよ!なんで、なんで私なの?私はなんにもないのに、』


心愛はそう言って俺の腕の中で涙を流す。
そんな心愛が愛おしくて、また何度も何度も口付けた。
そんな俺を心愛は決して拒むことはしなかった。


『なんで、私なの?私はなにも持ってないのに。…信じてあげられないのに。家族にも見捨てられてるのに。』

「…それでもいいんだ。」


そう、ただ心愛が俺たちを受け入れてくれれば満足なんだ。
心愛が大事なんだ。宝物なんだ。
でも、それと同時に壊したくなる。

なんでだろう?ただ、大事なだけなのに。
心愛を汚したい気持ちが止まらないんだ。
でもそれは俺だけじゃなくて、他の人も同じようなことを考えてるって気付いてる。
それに、俺たちは俺“たち”で心愛を共有しないと心愛を壊すってことも。

こんなこと気づかなければよかった。



心愛Side

わからないの。恐いの。
私なんかが愛されることが、

本当は私はもうこの世界を受け入れ始めてるって気付いてる。

でも、それを認めたらあの世界を、あの人たちを否定しているような気がして、
そしたら私が一番恐れている“裏切り”を自分がしているんじゃないか、って。

そしたら、私は最低な人になっちゃう。


「心愛はなにを恐れてるの?」

『恐い、恐いの。私が、私じゃなくなっちゃう。そしたら、わた、し、は』


“私”じゃなくてなにになっちゃうの?

誰が私じゃない“私”を受け入れてくれるの?
それに、私は一生あの子への憎しみ、怨み、妬みそれに殺意を忘れることが出来ない。

この黒くてドロドロとした気持ちが消えることはなくて、そんな自分が嫌なのに。
あの子が悲しむと嗤っちゃう自分がいる。
あの子が私を妬むと気持ち良く感じる私がいる。

じゃぁ、あの子がいなくなれば私は苦しまなくてすむのかな?
あの時みたいに私があの子と死ねば世界は元通りになるのかな?








I don’t believe in anything.



 
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