『わ、たしは、「あーっ!金ちゃんとリョーマじゃねぇか!なにしてんだぁ?」


私が言おうとした言葉は有澤夏香と一緒にこちらへやってきた七坪上総の声に掻き消された。


「あ。跡部サンもいたんだな」

『あ、はい。』


七坪上総は私に気付かなかったらしい。
まあ、有澤夏香は私に気付いてたっぽいけど。
私のことすごい睨んでるしね。

私が有澤夏香のことを考えてると越前くんが不機嫌そうな声で七坪上総に話しかけた。


「あのさ、俺名前で呼ばないでって言ったよね。」

「別にいいじゃねーか!先輩命令だ!」

「上総。あまりリョーマを困らすな。」

「アンタもなんだけど…」


3人が話しているのを傍観していると遠山くんが、私の腕をいきなり引っ張ってどこかへ向かった。


『遠山くん、?離してください!』

「……」


まだ私が整備していないテニスコートに着くと遠山くんはやっと私の腕を離してくれた。

それまで無言だった遠山くんは急に振り向くと私に抱きついてきた。


『え、』

「やっと二人きりやわぁ。ずーっとぎゅってしたかったんや!今までなぁ、ずーっと我慢しとったんやで?偉いやろ!」


な、に?
遠山くんってこんな性格だったけ?
私の知る遠山くんと違う……?


「心愛どうしたんや?ワイと一緒におれて嬉しいんか?ワイなぁ、めっちゃ嬉しいで!」


遠山くんはそう言いながら、私を抱きしめる力を強くする。


『あ、くる、し』

「なんや?どっか苦しいんか?!心愛がいなくなるんは嫌やぁ!!」


遠山くんはさらに私を抱きしめる力を強めた。


「金ちゃんなにしとるんや」


私の意識が朦朧としたところで誰かがやってきた。


「財前〜!心愛が苦しそうなんや!どないしよう!」

「金ちゃんの力が強すぎるんや。一回離してみい」


財前がそう言うと遠山くんは素直に私を解放してくれた。


『けほっ…!はぁ…っ!』

「心愛〜!堪忍やぁぁああ!!」


解放された私は地面に手をついておもいっきり息を吸った。
遠山くんが謝っていたけど今は返事を返せる余裕がない。


パシャッ

『っ!え……?』


私が足りなくなった酸素を体の中に取り込んでいると携帯のシャッター音が聞こえた。
顔をそちらに向けると財前が私を携帯で撮っていた。


「いいのが撮れたわ。おーきに。」

『消して、くださ、い。』


なんで私の写メなんか撮るの?やだ…止めてよ。


「財前なにしとんのや?」

「金ちゃんにも後で見せたるわ。」

「?おーきに?」


やだやだやだやだ。私はいなくなるのにそんなの必要ないよ。


『おねがい、だか、ら。』

私はうつむきながら財前に写メを消してくれるよう頼む。


「…嫌、言うたら?」

『おねが、い』


私が続けてそう言うと財前はしゃがんで、私のあごを掴むと顔を近付けて言った。


「その顔いいやん。もっと見せてや。」

『っ―――!』


そう言いながら財前は私の耳を甘噛みした。


「財前なにしとんねん!ワイ怒るで!」

「堪忍、堪忍。ちょーっと遊んだだけやん。ほな、俺は行くわ。」


財前はそう言って立ち上がるとどこかに行ってしまった。

何分かたって私も立ち上がると、テニスコートの整備を始めた。


「ワイも手伝うわ!」

『…ありがとうございます』








私は知らない



 
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