跡部景吾の部屋から逃げるようにして出た後、私は幸村精市に自分の部屋を聞いて自分の部屋へ向かった。


幸い、私は一人部屋だったのでとても寛ぐことが出来そうだった。

部屋の鍵を閉めてからベッドで横になる。

横になると疲れていたのか、すぐ寝てしまった。


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『私も蜜乃ちゃんのことだぁーいすきだよ!』

「本当?私もだよ!」


あぁ、これは夢だ。
だって私が笑ってる。
あの子と一緒に笑ってる。

あの子は変わった。
ううん、私が知らないだけで元からあの性格だったんだと思う。

あの好意はぜぇーんぶ嘘だったの。

そうだよね。
だぁれも私なんか好きになるはずないもんね。


あ…これは……


「あはっ!あんたはねぇ、蜜乃の生け贄に選ばれたのよぉ?よかったわね!」


私が殺された時のきぉ、く?


『みっ、のちゃ、ん?』

「蜜乃の名前呼ばないでよー!汚れちゃーう」

『な、』

「蜜乃はねぇ、あんたがだいっきらいなの!いっつもいっつも澄ました顔してさ!蜜乃があんたと一緒にいたのはあんたが便利だったから!それ以外はなぁんにもないの。でも、あんたは蜜乃の生け贄に選ばれたのよ?感謝しなさい!」

『い、やいや、嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌!!』

「あぁぁああああ!逃げないでよ!本当ウザい!早く逝くよ!」

『いやぁぁぁぁあああああああああぁああぁああ!!』


そして、私は諦めてあの子と一緒にビルから落ちた。


私は私達が落ちたところをただじっと見つめた。

視界が滲むのは気にしない。


もし、あの時に諦めなかったらもっとずーっと愛してた人たちと一緒にいれたのかな?信じられたかな?

……今となっては分からないけど。

会いたいなぁ……


『………お父さん………お母さん………』


会いたい、よ


「心愛……」


誰かが私の名前を呼ぶ


『ぉとうさん?ぉかぁさん?』

「心愛………」

『待って!待ってよ!』

「心愛…………」


なんで?なんで追いかけても追いかけても遠ざかるの?
私を置いていくの?

私を、私を
『私を捨てないで!!』


そう叫んだと同時に目が覚めた。


『うっうっ……うぅぅう』


夢だって分かってた。
でも、それでも私は私を捨てないでもらいたかった。

私が膝を抱えて泣いていると扉の外側から幸村精市の声が聞こえた。


「心愛?もうすぐ夕飯だから広間に集合だって」


もうそんな時間なんだ…
私が寝たのお昼頃だったのに…
あんまりお腹空いてないな


『ごめんなさい。私、食欲ないので夕飯はいりません。』

「…明日から練習だから食べないと駄目だよ。」

『………ごめんなさい』

「…入るよ。」

『っ!駄目!』


幸村精市は私の返事を待たず部屋に入ってきた。


ガチャ
「…泣いてるの?」

『お願い、ですから、この部屋から出ていってくだ、さぃ』


私が顔を見せないように、顔を膝に埋めているのに幸村精市は、私の隣に腰を降ろすと私を抱き締めた。


『っ―――!はな、して、!』

「泣いてる心愛を一人に出来ないよ。」

『な、んで、ふぅっ……うぇぇえええんっ―――!』

「大丈夫、大丈夫。俺たちはずーっと心愛の傍にいるよ。ずーっと、ね」


幸村精市は私が泣き疲れて眠るまで、その言葉をずっと繰り返していた。


幸村Side

「ふふっ…もう出てきていいよ。」


泣き疲れて眠ってしまった心愛の頭を撫でながら俺は笑って言う。


「幸村ずるいなり」

「俺らも心愛を抱き締めたかったのによー。」

「あはは!ごめん、ごめん」


俺が笑いながら言うと仁王とブン太は不満そうにふてくされてた。


「それにしても、心愛先輩の寝顔はかわいーっスねっ!」

「女子の寝顔を覗き見るなどたるんどるっ!」

「そう言いながら、副部長だって見てるじゃないっスかぁ!」


赤也と真田は心愛が寝てるのに五月蝿いな。
起きたらどうするんだ。


「赤也、弦一郎。そこまでにしておけ。」

「そうですよ。幸村君に怒られてしまいます。」

「赤也もあんまり心愛の寝顔を見るな。」


まあ、連二は寝顔を見るより写真を撮ってたけどね。
後で焼き増ししてもらおう。

仁王は寝ている心愛の髪を梳くと恍惚とした顔をした


「心愛はもう俺らから離れられんのぉ…。これで、ずーっと一緒じゃ。」


仁王は怖いね。
まあ、それを考えてるのはここにいるみんなだと思うけどね。







優しさ=狂気?



 
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