『幸村くん。私を呼んでいたそうですが、なにか不備でもありましたか?』

「あぁ心愛か。ちょうどいいや。赤也が半分赤目になってるから頼めるかい?」


そう言って幸村精市が目を向けた方に私も目を向けると切原赤也があの子に半分キレかかっていた

あぁ、いい気味
ニヤける顔を必死で普段の状態で保つ

ここで私が切原赤也を止めたらあの子は傷つくだろうか?それとも妬むだろうか?
どちらでも私にとってはすっきりする顔だけどね


『わかりました。やってみます』

「頼んだよ心愛」


幸村精市に言われて私は首を縦に振ると、切原赤也とあの子がいるところまで小走りで近寄っていった


「なんでテメェなんだよ!しかも軽々しく俺に触りやがって!気持ちわりぃんだよ!」

「っ!ひ、ひどい……!」


あ、あの子が傷ついてる。
もっと、もっともっともっともっともっともーっと傷つけばいいのに…

とりあえず、今にもあの子を殴りそうな切原赤也を止めなくては


『切原くん。』

「んだよっ!」

「っ!跡部さ、ん?」

『切原くん、もう止めてください。暴力沙汰になったらテニス部は部活動停止になりますから』

「……っ!心愛せんぱい?」

『そうです。落ち着きましたか?』

「あっ!俺……すいませんでした!」

『大丈夫ですよ?では切原くんは幸村くんが待っているので幸村くんのところに行ってきてもらえますか?』

「わかりました……」


あの子が私を妬んで睨んでる
私はその顔を見ても喜ぶだけなのに


『荒川さん、大丈夫ですか…?』


私がそう問いかけて手を伸ばすと、あの子は私が伸ばした手を引っ張り


「あんたがいなくても蜜乃はうまくやれたんだから」


と私の耳元で囁いた


そしてみんなに聞こえるように


「心愛ちゃん!ホントありがとね!」


と言った


私の名前を呼ばないで欲しい
思い出したくもないあの頃を思い出すから。







名前とは自分を縛るもの



 
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