「触んじゃねぇ!」


私が部室から出てタオルを乾しに行こうとすると、ちょうど切原赤也があの子の腕を払っているところだった

あの子が傷ついた様子を見て笑いが込み上げるのを我慢して無表情を徹し部室裏へ移動する


『ふふっ』


部室裏に行くと笑いが我慢出来なくて笑ってしまった

やはり私は最低な女らしい。


私はその考えを吹き飛ばすように頭を振るとタオルを乾し始めた


「心愛」

『っ!な、んですか?仁王くん』


私がタオルを乾していると仁王雅治が耳の傍で私の名前を呼んだ

私が思わず耳に手を当てて仁王雅治の方を振り向くと、仁王雅治はくっくっくっと笑いを堪えていた


本当にレギュラーの皆は怖い。
誰に隠すわけでもなく私に好意を押しつけてくる。


「そんな警戒しなさんな。別にとって喰おうってわけじゃないんじゃし」

『別に、警戒なんて……』

「しとるじゃろ?……まあいい。幸村が呼んでるぜよ」


仁王雅治はさすが詐欺師と呼ばれてるだけあって鋭いと思う。
だから、よけいに信じられない

………あの愛すべき人たちがいる世界に戻ったら私は今度こそ人を信じられるんだろうか?

それすらも分からない。


「…心愛?」

『あ!ごめんなさい!私、幸村くんのところに行ってきますね!』


それ以上考えるのが嫌で私はその場から走って逃げ出した。


「仁王くん。」

「なんじゃ?やぎゅー」

「心愛さんをいじめるのは控えた方がよろしいかと」

「これも一種の愛情表現じゃよ。やぎゅー」

「…………」

「それに俺だけじゃないじゃろ?心愛に歪んだ愛情持っとるのは」


逃げ出した私は仁王雅治と柳生比呂士の会話など入っては来なかった





私の知らない愛



 
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