池に小石を投げると水面に波紋が生まれる。ゆっくりと、次を生みながら。そんな風に日常が変化していく。

「今日も来てくれたのね」
「おまえはおれが姿を表す前に気付くな」
「ふふ、夏目の足音でわかるわよ」
「足音?」
「私、耳が良いの」

夏目と初めて出会って以来、夕方と夜の間の時間、私たちは一緒にいる。何を話すわけでもないけれど、ただ一緒に。隣にある彼の存在に温かさを感じる。私は彼に温かさを与えられているのだろうか。少しでも、気持ち分でも。

「そうだ、今日はお土産があるんだ」
「お土産?」

ほら。紙袋が夏目の鞄から出てきた。それを開く彼の指に目がいった。細くて綺麗な指だが、ほのかに感じさせる男らしさ。こんなに頼りない身体なのに男なのだなあ。不思議だ。

「おい、いらないのか」
「あ、えっと、」
「柏餅」
「…これ初めて食べるわ。柏餅って言うのね」
「そうなんだな」
「ありがとう、夏目」
「…貰い物だから」

暗くてよくわからないけれど、もしかしたら少しだけ耳が赤いのかもしれない。ぽっと私の顔が熱くなってきて、初めての柏餅の味はわからなかった。


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テーマ「推しとの恋」
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