夏目とさようならをしてから季節が一周した。私はベンチに座ってゆるやかに流れる季節に耳を澄ましていた。偶然手のひらに落ちてきた葉のかたちに心が揺れる。彼は元気にしているだろうか。

こつりと無意識に探していた音を拾う。まさか、そんな。期待したくなくても期待してしまう。私は耳が良いのだ。ましてや彼の足音を他の音と間違えるはずなんてない。

「…久しぶりだな」
「…本当に」
「元気にしていたのか」

少しだけ大人びた彼に自然と笑みがこぼれる。ああ、夏目の時間は確かに流れていて。そして良い人と巡りあったことがわかる。

「これを拾ったの」
「去年もこれをくれたな」
「そうだね」

「ねえ、夏目」
「何だ?」
「これからは何かしあわせなお土産を持ってここに来てほしい」
「しあわせなお土産?」
「そう。しあわせな思い出をお土産にするの。そして、私に話して」

わかった。手を降り別れる。次は彼のどんな話がきけるのだろう。その日を待ちわびて、ゆるりと、瞼を落とす。



「藤原家の人びとがおれのことを家族だと言ってくれたんだ」
「そう」

「妖が見えるおれでも受けいれてくれるひとができたんだ」
「そう」

「こんなおれでも守りたいってひととであって、気持ちが通じ合ったんだ」
「そう」

「前に話したひとと結婚をすることにしたんだ」
「そう」

「子どもができたんだ。来年にはおれも父親だ。温かい家庭にしたいな」
「そう」

「子どもが生意気盛りで手を妬いているんだ。でも可愛いんだよな」
「そう」

「子どもが就職して家を出たよ。やっぱり寂しいもんだな」
「そう」

「妻が逝ってしまったよ」
「そう」

「おれももうすぐだな。おまえとは不思議な関係だった。妖とでも心を通じ合わせることができるとおまえのおかげでわかったよ」
「そう」
「気づいたらしあわせなことばかり話していなかった。すまないな」
「夏目の話は何でもすきよ」
「…そう」

なあ。おまえはおれの人生の中でかけがえのない存在だったよ。おまえと出会えて、よかった。ありがとう。


お礼を言うのは私の方。あなたの一生の傍らにわたしを置いてくれてありがとう。でもそのおかげで、気持ちはまだ色褪せてはくれないけれど。

本当に、ひとの一生は本当に一瞬ね。暇だから、またあなたの足音をきく、その日まで目をつむって、あのベンチで待っていようかしら。



それまでのさようなら。

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