誰かに聞いてほしい。それくらいに膨れあがった思いだった。落ちるのが早くなった陽を背中で感じながら誰かを待つ。早く、誰か。自分が作った、机との闇に涙が落ちるまでに。

扉が開く音を拾った。あまりにも待ちわびすぎて幻聴かと思ったが、その後に続くひとの息遣いや気配でこれが現実なんだと実感した。誰なのだろう、私が話せるひとなのだろうか。思いきり顔をあげると思ったより近くにそのひとはいて、その近さに驚きの声が漏れた。相手は目を見開いて、そしてくしゃりと笑った。

「びっくりした。急に起き上がるなよな」
「すが、わらくん」
「どした、気分悪い?」

私と菅原くんはとりたてて仲が良いわけではない。だけど、何となく、誰かが、菅原くんで良かったって、思った。

「菅原くんバレー部だよね。練習は終わったの」
「終わったよ。忘れ物取りにきた」

これこれと見せてきたのは数学のノート。明日テストだからさすがに持って帰んないとな。またくしゃり彼は笑う。こんなに笑顔が似合うひとがいたんだなあ。

「で。お前はどうしたの」
「…」
「何で泣きそうなわけ」

菅原くんの大きな瞳に私が映る。その目が真っすぐすぎるくらい真っすぐで言葉にうまく繋がらない。ただ、聞いてほしい、もうこの感情を自分ひとりでは処理できなくなったの。

「私の話を誰かに聞いてほしくて、ここで、待ってた」
「それ、俺でいいの」
「菅原くんが良ければ」
「じゃあ聞いてやろう」

一週間前まで私には彼氏がいたの。初めて男子に告白されて、しかもかっこいいなあって思ってたひとだから本当に嬉しくて嬉しくて。その日の夜はニヤニヤがとまらなくて心臓がどきどきして眠れなかったんだ。付き合っていない時は気づかなかったけど、彼、結構女の子と話したりスキンシップが多かったりするの。最初のうちは我慢してたけど、一ヶ月経ったくらいに、私がいるのに何でって言ったの。そうしたら彼は笑って、じゃあ別れようぜって、別に私じゃなくてもいいんだって。とにかく面倒臭いことが無理なんだって。なんだそれ、って感じで急に虚しくなって泣きそうになった。こんなのが彼氏だったのかって。友だちに別れたことを言うのだって、こんな理由じゃ恥ずかしくて言えなかった。喜んでてのろけてた私がばかみたいじゃない。変なプライドのせいで言えない思いが大きくなっていって我慢できなくて、今日、菅原くんに話したの。

「ごめんね、こんな話して。ただの愚痴なのに」
「すっきりした?」
「…うん、ありがとう」
「ならよかった」

「んじゃ、帰りますか」
「え」
「お前の愚痴に付き合ったんだから、今度は俺の愚痴を帰りながら聞いてよ」
「うん」

菅原くんのくしゃりとした笑顔が私のどろっとした気持ちをなくしてくれることに気づいた、8月19日の放課後のこと。

  
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