「バレー部を辞めさせてください」
静寂な空気の中で場違いな発言が響き渡った。辞めるもなにもマネージャーである彼女は俺と同じ三年であり、決勝戦で敗れたことにより自動的に引退をしたのだから。引退したのに辞めたいなんて意味不明だ。
「こんな空気でわたしは引退したくないんです、」
ジャージで目をこすってそのまま飛び出した彼女を自然と追いかけたのは俺だけだった。体育館の裏で小さく丸まっていた姿を見てあれこれ考えてた言葉が一瞬にして吹き飛ぶ。あれ、俺、何を言おうとしたんだ、
「…飛雄くんだよね」
「…」
「ごめん、変なこと言って、空気悪くして」
「悪くなるもなにも最初からワリーよ………俺のせいで」
「飛雄くんのせいじゃないよ!」
新しいものに押し出されて溢れた涙が頬を伝っていた。それをまたごしごしとジャージでこするものだから薄く赤く残っていた。
「飛雄くんのトスは、勝利への、執着で、なにも飛雄くんだけのせいじゃない。みんなどこか飛雄くんを天才だからって一線引いて、諦めてた。もちろん、飛雄くんも悪い、けど、トスをあげた先に、誰もいないなんて、ひどい」
ごしごし、もう、真っ赤だ。
「やめろよ、赤くなってるだろ」
「だって、タオル忘れたし」
「お前はさ何で泣いてんの。わけわかんねぇ」
「…悔しいからだよ。優勝、できなかった」
「…」
「あと、大好きな飛雄くんが、悲しい目にあったから」
「…は」
「…涙とまったから、帰ろ」
「は、お前、俺のこと好きなの」
「ちがうよ」
「はぁ?」
「大好きなんだよ。飛雄くんのこと」
笑いながら泣いているものだからまたこすらないように俺の胸に押し込めた。「わたしがプレイヤーなら飛雄くんをひとりにしないのに」なんて震える肩で言うから伝染して俺の肩も震えだした。お前がプレイヤーなら俺ホモになるじゃねぇかバカ。