「じゃあ別れようよ僕たち」

何度めだろう。この言葉を吐くのは。僕の言うこと(彼女は我儘だと言う)に彼女が反論してくると、この言葉を放つ。その後に続く言葉は決まって「それはいやだ」と弱々しいものであった。そして僕は、じゃあしょうがないよね、とその場を丸めてゴミ箱に投げ捨てる。どうしてそのまま別れてしまわないのかと山口から聞かれるが(あいつはただ僕が彼女と付き合っていることが嫌なだけだ)、別に特に理由はない。ただ別れたくないと彼女が言うから。僕の意志なんてこれっぽっちもない。どっちでもいいのだ。僕の意志なんていつの間にかゴミ箱に捨ててしまっていた。そもそも、僕には彼女を思っていたことがあるのだろうか。いや、思い当たらない。


「え、蛍くん、今日帰れないの」
「だからそう言ってるでしょ。次の練習試合の話し合いがあるって」
「…これでドタキャン何回目なの」
「しょうがないんじゃないのこれは」
「いつも、そう言うよね。しょうがないのかもしれない。部活のことだもん、でも、」

ああ、本当に面倒臭い。ため息を吐いた。11月の屋上はもう寒い。

「…じゃあさ、別れようよ。僕といても楽しくなさそうだし。僕も楽しくないし」
「……蛍くんは、楽しくないの」
「…そうだね。バレーでもしてた方がまだマシ」
「…わかった、」

立ち上がった彼女は僕に背を向けて屋上を去った。これで、終わったのだ。彼女が別れを選べばこんなにもあっけなく終わる関係だったのだ僕たちは。


部活帰りにいつものようにヘッドホンをつけて音楽を流す。聞き覚えのないイントロに違和感を感じた。流れてきたのはあの子が勝手にいれた歌だった。それは失恋しても恋い焦がれる歌で、僕は不覚にも胸がちくりと痛くなったのだった。あの子も今この歌を聞いて胸を痛めるのだろうか。あの子を思い遣ることの出来なかった僕には見当もつかない。

  
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