隠したいことがあっても隠しきれない。まるで自分のことのようにわかってしまうから。ねえ、そうでしょう。

雨粒がぼろりと一粒落ちたかと思うと勢いよく他のものたちも落ちてきた。完璧には覚醒していない頭に響いた朝のニュースのお天気お姉さんの声。何が今日は最高の秋晴れよ。目の前の雨のカーテンを睨みながら心の中で毒づく。この雨の中を走る元気を六時間の授業で奪われた私は玄関に座るしかなかった。ああ、暇。後ろを通りすぎる声はこの時間にしては少なくて、みんな、何してるんだろう。

雨はなかなか止まなくてぼんやりと落ち続けるものを見ていると睡魔がにやりと笑って近づいてきた。そいつへの抗体を持っていない私は徐々に重くなる瞼の上げ方を知らなかった。がくりと頭が下がるたびに目が覚めるけれど、すぐに、また、夢の中。夢の中を泳いでいると何かで頭を叩かれて現実へと強制送還。誰だ、まったく。

「何でこんなところで寝れるかなあ」
「…孝支がいる」
「帰宅部がいる時間じゃないよ、もう」

雨はすでに止んでいて、おまけに外は真っ暗だ。一ヶ月前ならまだ明るくて暑かった時間なのに、もう暗くて涼しくて。時間は流れ続けていて、地球もぐるぐる回っている。一時間でも一分でも一秒でも同じ時間はない。一緒に帰らない?、と最後に誘われたのはいつだったかな。私は彼が過ごす時間を、直接的ではないにしろ距離を置いて避けてきたから。

肩を並べて歩く。こっそりとお天気お姉さんに感謝半分をあげた。もう半分はやっぱり毒。孝支と何を話したらいいかわからない。何を話しても心と頭が揺れる気がする。「あ」隣から漏れる音に顔を向ける。彼もこちらを見ていて、変わらない笑顔で「あれ佐藤だべ」と言う。佐藤、佐藤。ああ、佐藤くん。

「佐藤くん彼女いたんだね」
「俺も初めて見た。高校違うとやっぱりわからないなあ」
「うん」

佐藤くんと彼女さんは佐藤くんのお家に入っていった。私と孝支はなかなかにやにやが止まらなくて中学時代の話に花咲かせた。変わらないものなんてない。変わってほしくないものがある。

「久しぶりだし公園ででも話さない?」
「私はいいけど、きつくないの」
「大丈夫だよ意外と」
「…副キャプテン、おめでとう」
「ありがと」

どの部活も三年生が引退して二年生が中心となった。バレー部も同様で、孝支は副キャプテンになったと風の噂で聞いた。私と彼が幼馴染の関係にあることを知っている友人は私が知らないことに驚いていた。幼馴染でも毎日一緒にいるわけじゃないし、私たちの場合は心の距離があったし。幼いころは本当に仲が良かった。二人で一つ、という感じだった。いつからだろうか。私たち二人で一つの世界じゃないって気付いたのは。孝支には孝支の世界があって、私には私の世界がある。季節が一周するたびに二つの世界の交わりは小さくなっていく。同時に育っていった、もしかしたら意識する前からあった恋心。私はそいつを隠し続ける。それを持って彼に一歩を踏み出すことが出来ないから。始まれば、終わる。踏み出せないし、踏み出さない。二人の交わりはもう永遠に広がらない。


「あのさ」

私たちは隠したいことがあっても隠しきれない。

「俺、お前と距離置いていたし、置かれていたのもわかってた」

まるで自分のことのようにわかってしまうから。

「言わないつもりだった。隠し通すつもりだった。お前がそうしてたから」

ねえ、そうでしょう。

「でも、久々に話して、どんどん、実感するんだよ。」


その続きを聞きたくなくて耳を塞いだ。それでもするりと、私が待ちわびていたかのように言葉が心と頭を支配していく。ごめん、お前のことわかってるのに。掬われる涙が何の意味を帯びているのか。どうしてこんなに熱いのか。嬉しいのに、悲しい。ぐちゃぐちゃだ。孝支が一歩を踏み出したのに、わかってくれることに甘えて、私はその場にしゃがみ込んで駄々をこねて変わりたくないと泣くのだ。だって終わるなんて嫌だ。心の距離があっても離れても、確かに幼馴染という絆は残る。恋人になってしまったら、幼馴染も消えてしまって何も残らないじゃないか。そんなの、耐えられない。痛いよ、苦しいよ。でも、少しきつい抱擁や、この体温を突き放すことも出来ない。隠しきれていないダダ漏れのこの思いを君はどう受け止めているの。


  
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -