「告白、どうだった」
「…断ったに決まってるだろ」
「そ、っか」

先程可愛らしい女の子に呼び出されて待機所から出て行ったカカシは、ものの数分で私のところに戻って来た。あんまり事を済ませるのが早かったから、カカシはきちんとあのこに返事をしたのだろうかと不安になる。野暮な質問をすれば、彼は眉間に皺を寄せた。纏う空気がいつもより、ほんの少しだけぴりぴりしている。ほんの、少しだけ。

「…相変わらず、だね」
「なにが」
「こういうこと」
「……」

彼は何も言わずに私の隣にすとんと腰を下ろした。伝わる微弱の風にふわり、髪が揺れる。近すぎず、遠すぎない。そんな私と彼との距離をもどかしく思いつつ、縮めることができない自分自身にため息をついた。あのこは今頃、どこかで泣いていたりするのだろうか。彼を想い彼が好きで、やっとの思いで伝えた気持ちは報われなくて。名前も知らない女の子のことを考えるとひどく胸が痛んだ。私が彼の隣にいることで、悲しむひとはたくさんいる。

「緊張、するんだよ」
「……」
「恥ずかしくてしにそうで、すごくすごくこわくて」
「なまえ、」
「でも好きな人にわかって欲しいから、」
「何が、言いたいの」

痛いくらいに冷たい声だった。はっとして隣にいる彼を見上げたら、彼はひどく傷付いたような表情をしていた。細められた瞳には私が映っている。私、何を言っていたの。これじゃまるで、私が、

「…時々、わかんなくなる」

唇からこぼれたつぶやくようなそれは、痛いほどずっしりと私の上にのしかかってくる重みを含んでいた。何かに諦めたような冷めた低い声。ちがう、違うのカカシ、わたし。そんなことを言いたかったんじゃない、違うの。ただ、ただこんな私が彼の隣にいてもいいのかなって。自信がなくて、不安で。

「本当に俺のこと、」

そらされる視線。伏せられた瞳にもう私は映らない。服の裾をぎゅっと握りしめる手がふるえていた。だってほらまた私、自分のことばかりで彼を傷付けてしまう。

「ごめん、ちょっと頭冷やしてくる」
「か、カカシ」
「…今日、部屋に行ってもいい?」

ふわりと微笑むそのやさしすぎる表情に、目尻がじわりと熱くなった。ゆっくりと首を縦に振る。ほっと安堵したように眉を下げてもう一度微笑んだ彼は、ありがとう、とそう言って一度も振り向かずに待機所から出て行った。後ろ姿を視線だけで追い掛ける。後ろでため息をつく気配がして振り返れば、頭をべしんと叩かれた。紅、だ。

「今のはあんたが悪いわよ、」
「く、くれない」
「どうして告白断ったのって、暗にそう言ってるようなものじゃない」
「…うん」
「どうでもいいけど、周りにあんまり気遣わせないでくれる」
「ご、め」
「…謝る相手、違うでしょう」

綺麗に笑った紅にまた涙が出そうになる。私の隣に腰掛けた彼女は、ゆっくりと背中をさすってくれた。大丈夫、大丈夫、思ってること全部伝えるの。あんなこと言わせちゃってごめんね。ちゃんと好きなの、好きなのよ。彼を傷付ける私がずっとずっと嫌いだった。大好きなのに傷付けることしかできない自分が、大切なのに思うことを言えない自分が。本当はずっと、そのせいで自分が傷付くのがこわかったんだ。





(どうやって大切にすればいいの)

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