「…こ、これはなんデスカ」
「とりあえずそのむかつくカタコトやめようか」
「俺、たまご焼きが真っ黒なのって初めて見た」
「ちょっと待ってよ、ほらこのへん黄色いじゃん」
「まず怒ろう、俺の発言に対して」
「うん?」
「……」

めずらしく彼女が俺のために朝食をつくってくれた。休みの日は決して俺より早く起きたりしない彼女が、今日に限っていきなりわたしが作ってあげる!と張り切った様子で言い出すものだから、驚いたと同時に不安にもなった。急にどうしたんだろう。

「無駄にしちゃった、たまご」
「いいよ、俺はたまご焼きつくってくれようとしたおまえの気持ちがうれしいから」
「…それ、余計かなしい」

あらためてなまえの不器用さを実感している場合ではない。けれど、しゅんと顔を伏せてしまった彼女を見ていると、なんだかどうでもよくなってしまった。大丈夫、こんなことでおまえを嫌いになったりするもんか。

「でもご飯はうまく炊けたね」
「え?」
「見てよ、つやつや」
「わあ、ほんと」

髪をくしゃりとまぜてやると、彼女は昨日の夜お米洗ったのわたしだったよね!と言ってうれしそうな顔をしたから俺も笑った。それから、炊飯ジャーの中を思いきり覗き込む。

「あつっ」
「わ、ばか」
「…ゆ、湯気あつい」
「炊きたてなんだから熱いに決まってるでしょ」

自分の顔をおさえて口元を歪める彼女に声をたてて笑ってしまった。そんなに熱かったのだろうか、それともご飯がうまく炊けてうれしかったのだろうか。馬鹿だなあと思う。けれど、同じくらい可愛いと思った。

「…食べるよ、」
「えっ、ごはん?」
「いんや、たまご焼き」
「…え、いいよ。無理しなくても」
「無理なんかしてない」
「こんなまる焦げのたまご焼き食べたら、カカシ、ガンになっちゃう」
「が、ガン?」
「うん」
「それはちょっといやだな…」
「でしょ、だからこれは捨てる。目玉焼きくらいならわたしにだってできるから…!」
「次は目玉焼きに挑戦するんだ」
「うん、きっとできるはず…!」

その無駄に力の入った言い聞かせるような物言いからして不安だ。ガンにはなりたくないけれど、この真っ黒なたまご焼きはなまえが初めてつくってくれたものだから。だからきっと大丈夫だろう。ガンになんてならないさ、

意を決した俺は彼女の手の内にあったたまご焼きを手でつかんでひょいと口の中に放った。つかんだ瞬間にくずれたたまご焼きにだって怯まない、全部食べてやる。じわりと口内に広がった苦い味に、眉をしかめそうになるのを必死にこらえた。に、にがい。

「あっ、ああーっ!」
「う」
「カカシ、くち、くち開けて!出さなきゃ、お、おいしくない…っ」
「っ、う」

ごくん。慌てた様子でコップに水を注ぎ、それを俺に差し出す彼女に短くいらない、と答える。

「…ばか、」
「ん」
「へんなとこやさしんだから」
「はは、ありがと」
「褒めてないっ」
「次は期待してるよ、たまご焼き」
「…練習したらうまくできるようになるかな」
「大丈夫、俺が教えてあげる」

咲いた花のようにぱあっと笑顔になった彼女はうれしそうにありがとう、と言って、それからどすんとぶつかるように抱き着いてきたものだから、受け止めるのが大変だったんだ。





(いつも君のやさしさに救われてる)

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