シーツを握りしめる手にそっと指先が触れて、ほどくようにやさしく促される。く、び。うすい唇がそっと動いた。首に腕をまわしてって目があまえている。わたしは彼の望むまま首に腕をまわし、髪に手のひらを差し込んで引き寄せた。彼が微笑む。額にはり付いた髪を耳にかけられてそのまま耳をあまく食まれた。耳やだって彼の髪を後ろに引っ張ると、いたいいたいってふざけて笑う。笑ったかおが可愛いからすぐにゆるしてしまう。たまらなくなってやさしい弧をえがく目許を親指でなぞれば、彼は微かに首をかしげた。なんでそんなにやさしいかおしてるのかなあ。カカシ、からだあったかいなあ。裸に洗い立てのシーツってすごく気持ちいいの、なんでかなあ。裸で毛布にくるまるのが好きだと前に彼に話したことがある。同意は得られなかったけれど。
「ふ、ん…、んう」
「はっ…、は」
目が覚めたら、隣にいるカカシがわたしをにこにこしながら見つめていた。ぼやぼやする視界のなか、肘をつく彼がおはようって笑ったから、わたしはそれだけでなんだか胸がいっぱいになってしまって思わずシーツに顔をうめる。上手に甘やかされているなあと急に恥ずかしくなった。カカシは簡単にシーツの上からわたしの鼻を見つけ出して、やさしくきゅうとつまんでわたしの反応を楽しんでいる。ふがっ、へんな声が出ちゃってわたしはいよいよ顔を上げられなくなる。もう、やめてったら。がばっと起き上がってカカシを押し倒す。遊んでないでキスしてようって首筋をぺろっとなめたら、あっけなくひっくり返されて今のこの状態に至る。もう止まってくれないみたい。
「朝から、や…、も、かか し」
「キスマークつけたい」
「え」
「つけてい?…こことか」
「や、な、何言って…!」
太ももの内側におっきな手が、う、太ももをゆっくり撫でて、うわあ!
「だあっ」
「わ、なに」
「何じゃないっ、駄目、そんなとこ」
「なんで?」
「いやだよ、手はなして」
「もっとすごいところ触ってるのに。胸はいいのに太ももはいや?」
「ぎゃっ。揉むなっ」
「…お願い、キスマークつけさせて。ね、いっこだけ」
わたしがいくら手首を掴んでも手は止まってくれなくて、一向になでなでする手は太ももを行ったり来たりする。ばかばかあほって何回言っても彼は知らんぷり。かわいいねって笑わないで。もう片方の手はわたしの右頬にあって、大丈夫だよって言われてるみたいで、わたしもうどうしていかわからない。
「パンツ穿いてる?」
「ちょっばか!」
「なんだ穿いてる」
「…カカシは、…パンツ穿いてる?」
「うん、穿いてる」
「……」
「なにほっとしてんの」
身体を起こして、ベッドに腰掛けるようにしてわたしに向き合ったカカシは、わたしの左足を両手で持ってゆっくり折り曲げた。足を閉じようとしてもそれはゆるされない。だめって膝こぞうにちゅうと唇をくっつけられてもう頬っぺは真っ赤っか。ぎし、とベッドのスプリングが音をたてた。こんなことされ続けたらへんな気持ちになっちゃう。時計みてよ、まだ七時半だよ。昨日朝ごはんはおれがつくるねって言ってくれたじゃんか。わたしがチャーハン食べたいって言ったら朝からかよってカカシが笑ったの、あんたこのやりとり覚えてるの。いい加減チャーハン作ってよ、ばか。
「左がいいな」
「…なんで」
「うん?なんとなく」
足をほんの少しだけ開かれる。やだやだって足をばたつかせてもそんなの無駄だってわかってる。顔から火が出そう。シーツで顔を隠すのも咎められて、わたしには抵抗の手段がもう残ってはいない。
「そんなに嫌がられると傷つく…」
「それを笑顔で言われても」
「はは、説得力ないって?」
「そうだよ…」
「でもやめない」
「あ、やっ」
ちうって肌に吸い付く音にびくんと肩が揺れて、それを見ていた彼がわたしの肩をグーでこつっとつつく。いたずらっぽく笑う彼に両肩を掴んでぐいぐいと離そうとしてもやっぱりかなわない。まだ跡ついてないよと言われてまた足を左右に開かれる。恥ずかしい、わたしのこんな顔見ないで欲しい。
「ん、…っ」
「…ついた」
「っ、もういいでしょ、わたし顔洗いたい」
「まだ行くなよ」
「ちょっと、いたい」
ベッドから下りようと彼の腕を退けようとすればその手は簡単に掴まって、さっきまでとは違う色をした目にたじろぐ。身を寄せる彼にわたしは思わず後ずさった。手繰り寄せるものが何もない。手首を掴む力がぐっと強くなってきゅっと目を閉じた。わたしが怯んだ一瞬を彼は見逃さない。
「ちゃんと見て、」
「な…」
「ほらここ、あかくなってるの」
「そっ、そんなの見なくてもわかるっ」
「なまえ、」
「…っチャーハン!!」
もう我慢の限界だと言わんばかりのわたしの大声に流石のカカシも驚いたようで、目をまんまるくした彼はぽかんとくちを開けたまま、あ。と何かを思い出したように間抜けな声を出した。無駄に息が上がっちゃってばかみたいだけど、逃げる道がこれしか見つからなかったんだもん。
「チャーハン食べたいの!」
「…昨日のやつ?」
「覚えてるでしょ」
「覚えてるけど…」
身体を離してベッドに座りなおした彼をきっと睨む。その顔、わたしが言わなかったら絶対忘れてた顔だ。
「チャーハン作ったら続きしてもいいの?」
「駄目!食べなきゃ意味ないでしょっ」
「じゃあ作って食べたら」
既に笑顔で腕まくりをしている彼を前にわたしはもう為すすべなくうなだれた。チャーハンなんて簡単に作れちゃうよ。全然時間かからないよ。けれどきっと何を言ってもカカシは聞かないだろうから、時間稼ぎができただけでもわたしにしてはよくやったほうだと思うことにする。だってわたしだって本当にいやなわけじゃないんだもん。そうなの、すごくすごく恥ずかしいけど、カカシはわたしが嫌がることは絶対にしないのをわたしは知ってるから。
「…もういいよ…」
「はは、いいんだ」
「あらびきソーセージじゃなくて魚肉ソーセージで作って」
「わかってるよ」
おまえ皮つきのソーセージほんときらいだねえってカカシが笑いながらベッドの端に座ってシャツを羽織った。やっと自由になった手でシーツを引っ張りすっぽりくるまる。チャーハンチャーハン言ってたからお腹空いてきた…。ドアのそばに立ってこっちを見てるカカシに気付いて、さっさとキッチン行けってあごでドアを指す。なんだか今日はやたらにこにこしてるなあ。
「キスマークは?」
「…もう好きにして」
「ふ、やっと折れた」
「しつこいんだもん」
「それは褒め言葉だね」
そう言って出て行こうとするカカシに思い切って声をかける。だって悔しいじゃないか。わたしばっかり恥ずかしくって、わたしばっかり余裕がなくて、そんなのいやだ。いっしょがいいんだよ。わたしと同じ気持ちにカカシにだってなって欲しいんだよ。
「わたしもつけたい」
「え」
「カカシに、跡つけたい…」
言い終わるか終わらないかのうちにベッドに逆戻りしたカカシを今度はちゃあんと受け入れて、胸に倒れこんできた彼を抱きしめてあげる。だらしないかおしてるね。うれしくて仕方ないってかおしてるね。かわいいかわいいって、髪をなでてやると鎖骨あたりに額を押し付ける彼がいとしかった。
「うん、いいよ」
「いいのかよ…」
「どこがいい?首?胸?太もも?」
「……」
「イタッ」
カカシのつくるチャーハンってすっごく美味しいの。わたし、だいすきなんだよ。だからあんまり他のところでがっかりさせないでね。わたし、だいすきを増やしたいんだよ。
わたしのことダメにしたら最後まで遊んでね
happy birthday kakashi..
title にやり