I am nothing but a crybaby.


「髪、しばり直してあげる」
「え」
「そんな結び方じゃ髪、傷んじゃうから」
「…あ、そか、じゃあ」
「うん、後ろ向いて」

慌てたように体の向きを変える彼の髪が、扇風機の風にふわふわと揺れた。エアコンの無い浜田の家は蒸し暑くて、首筋に髪が張り付いて気持ち悪い。気を遣ってか押入れの奥から浜田が扇風機を引っ張り出してくれたのがつい五分前。向けられたひろい無防備な背中に、急いで片付けたのが容易に伺えるこの部屋に、わたしはほんとに浜田の彼女なんだなあと改めて思うことができるんだ。浜田はここで一日の半分を過ごしているんだね。実は彼のアパートに来たのはこれが初めてだったりする。わたしだって緊張していないわけじゃない。きたないとこだけどって遠慮がちに手をひかれて、階段を上がったのだってついさっきのこと。

指通りの悪い髪を、手櫛で梳いていく。少し俯き気味におとなしくしている彼の首筋に、触れたいって。触りたいって、指先が熱い。胸が疼く。ただ浜田の髪をしばっているだけなのに、何考えてるんだろ。どうして今日はこんなに心臓がうるさいの?連れて来てくれたのがうれしかったのは本当だけど、少し浮かれすぎているのかも。さっき話している最中に、落ち着きがなくってもらったオレンジジュースをこぼしそうになったこと、どうか彼には気付かれていませんように。


He is nothing but a lonely.


「傷んでる、ね」
「あ、やっぱり」
「…きれいないろなのにな、」
「!」

揺れた肩に愛しさが募る。浜田は背がたかいから、立ち膝じゃないとうまく髪が結べないや。一年前よりはずっと伸びた襟足をひとつにまとめていく。くすぐったそうにしている彼は中々そのことを言い出せないようで、かわいいなと思った。

ふと、しろい首筋から目が離せなくなる。日焼けしていないそこは腕や足に比べてずっとしろくて、心臓がやけにおおきく音をあげた。触っても、いいだろうか。怒らないかな、困った顔されないかな。駄目かな、でも。触ってみたい、

「わっ、な、なに」
「まっしろ…」
「ま、?」
「キス、したくなる」
「えっ…ええ!」

すごい勢いで振り返った彼の頬があかいのをみて、わたしはほっと胸を撫で下ろす。キスしたい、さわりたい、抱きしめたい。彼に思うことぜんぶ、彼にしてあげたい。

「あ、ちょ…っう」
「!」
「おまっ、みょうじ、ばか!」

両肩を掴まれて、ぐいと体を離される。今わたしが首筋にキスをした感想はと誰かに聞かれたら、浜田の声が恥ずかしかったと真っ先に答えるだろう。だってびっくりした、浜田が、かわいくって。お互い頬はまっかで、下を向いたまま何も話せない。呼吸の音だけがやけにおおきく聞こえるの。

「お、おれは」
「……」
「全然なんも、わかんねえから…」
「は、ま」

しばっている途中だった髪はばらけてしまった。ゆっくりと彼が顔を上げる。自然に交錯する視線。わたしは髪にくしゃりと手をあて、浜田はあかい顔のまま目を細めてごめんとつぶやいた。

「おれ、大事にしたいんだよ、おまえは、…その、な、慣れてんのかも、しんないけど」

おれは大事にしたいの、そう言った彼の苦しそうな表情を、これから先ずっと忘れたくないと思った。胸がぎゅうと押し潰されるみたい、くるしくて息ができないよ。浜田がすきで、すきで、キスしたい、さわりたい、抱きしめたい。わたしを大事にしたいと言ってくれた彼だけど、我慢なんか無駄なんだから。理性なんてすぐ崩れちゃうんだから。さっきのわたしみたいに、さわりたいって思っちゃうんだから。すきになったら、そんなの当たり前なんだから。


so,two people comfort it each other.


わたしは泣き虫にすぎないの、彼は独りぼっちにすぎないの、だから二人はなぐさめ合うの

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