花井くんとバレンタイン

「何個もらったの」
「…何の話?」
「チョコレート」
「はっ、はあ?べ、つに…何だよ、いきなり」
「隠すことないでしょ」
「…もらってねえよ、そんなん」
「うそつき」
「うそじゃねえって!」
「さっき廊下でもらってたの、見たもん」
「なっ、おまっ」
「…花井のうそつき」

「なあ、おれほんとにもらってないから」
「だから、わたし見たって」
「…丁重に断りました」
「え」
「で、おまえは?」
「え、だって、え?」
「くれんの、くれないの」
「…っ、は、花井のあほ」
「くっ、ほんとばかだなおまえ」
「…実はフォンダンショコラを作りました」
「へえ、あのあっためたら中からチョコレート出てくるやつ?」
「そうです。出てくるやつです」
「…ありがとな、」
「う、うん」
「部活終わったらおまえん家行くよ」
「じゃあ、九時過ぎ?」
「うん、そのときもらう」
「待ってるからね、…絶対だよ?」
「絶対行くよ。欲しいもん」
「…そ、そうデスカ」

今日くらいは女の子


仲沢くんとバレンタイン

「そわそわしてるね」
「えっ、そ…そうかな」
「もう放課後だもんね」
「…うん」
「ショートホームルーム終わったら部活だもんね」
「…うん」
「利央は誰かからチョコもらう宛、あるの?」
「なっ、ええ…、そんなこと言うの…」
「うふふ」
「…どうせみょうじはチョコつくってないんだ」
「そんなことないよ?」
「エッ」
「さっき高瀬先輩に会ったから、チョコ渡してきたとこ」
「ちょっと待って!それって準さんにはあげておれにはくれないってこと!?」
「誰もあげないなんて言ってないでしょう」
「だって!おれ朝からずっと待ってたのに!みょうじがチョコくれるの楽しみにしてたのに!」
「ぶふっ、利央かおまっかだよ」
「おれは!怒ってるんだ!」
「…じゃあ」
「なに!」
「わたしが作ったチョコは…、いらない?」
「え、ちょっ、何それ」
「だって怒ってるんでしょ?」
「おっ…怒ってるけど!いや!違うもう怒ってないから!」
「はい」
「…え」
「利央の分のチョコだよ」
「…ほ、ほんとに、おれにくれるの」
「うん、利央のためにつくったんだから。ちゃんと食べてね」

「…でもね、おれ」
「うん」
「やっぱり一番がよかった」
「うん、ごめんね…。ちょっと意地悪が過ぎちゃったね」
「…も、いいよ。チョコもらえたから」
「でも利央のが一番大きいし、形もきれいなのを選んだつもりだよ」
「え、おっ、おおお…!」
「うれしい?」
「すっ、ごく!」
「中身はザッハトルテです、しかもハート型!」
「…あ…あり…ありが…っ」
「泣かないの」

こんなわたしをわかってね


泉くんとバレンタイン

「え、買ったやつじゃんこれ」
「それが何か」
「…手作りするって言ってなかったっけ」
「え?わたしそんなこと言った?」
「言ったよ。おれにお菓子の本見せてどれがいいって聞いただろ」
「あは…」
「…何だよ、期待してたっつうのに」
「わ、」
「忘れてたわけ」
「……」
「おまえが思ってるよりおれ、傷付いてるからな」
「……」
「こんなことならクラスの女子の手作りマカロンもらっとくんだった」
「いっ、泉!」
「…なに」
「手作りマカロン、ちゃんと断ってくれたんだ…!」
「なにその顔。ていうかおまえからもらえると思ってたし。それがまさか忘れられてたなんてな…」
「ごっ、ごめん泉、ちがうの!」
「ちがうって?」
「…泉が食べたいって選んだの、マーブルチョコシフォンケーキだったよね」
「よく覚えてんじゃねえか」
「忘れるはずないもん」
「じゃ、なに」
「…失敗シマシタ」
「失敗?」
「とても人に見せられるようなものでは…ないのだよ…」
「そんなひどいの」
「自分でもびっくりしました。何回焼いても生地がカチコチ」
「…最初からもっと簡単なのにすればよかったろ」
「だってやっぱり、泉が食べたいって言ってたの作りたかったんだもん…」
「……」
「ごめんね」
「…や、いい、けど」
「もっと練習して、絶対つくれるようになるから」
「お、おう」
「うまくつくれるようになったら、…そしたら食べてくれる…?」
「当たり前」

ほんとうのことは言えない



11.0214 ハッピーバレンタイン

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