エゴイスト
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「おかえり〜!」

任務明け、報告書を提出すれば笑顔で迎えられ、抱き寄せられる。
そして顎を掴まれ、唇が合わせられた。


が、離れた途端、カカシの拳が四代目の頭に降り下ろされた。


「いった〜い!何するの」

「それはこっちのセリフです! 此処は執務室ですよ!? 二人っきりじゃないんですから! 暗部の人間だっているんだから!!」

「いいじゃない。暗部の連中はお前がオレのもんだって、知ってるんだから」

「〜〜〜〜〜!!」


しれっと言い返す四代目に、顔を真っ赤にして反論する。


「だからって、時と場所を考えてよ。センセ、仕事中でしょ?」
「ああ、じゃあ休憩しよう」


強引にカカシの腕を取り、仮眠室へと連れて来る四代目。


まるで乱暴とも言える仕草でカカシを組み敷き、口付け、服を剥ぎ取っていく。


「ちょっ、ちょっと!センセ!? ま、んんっ…」



抵抗を試みるが、難なく塞がれてしまった。
諦めて四代目の愛撫を受け入れれば、たちまち快楽の波がカカシの身体を包み込んだ。


「あ…ぁあ……センセ…ね…どっ、どうしたの?」


愛撫に翻弄されながらも、いつもと違う強引さに何かあったのではないかと思う。



「…………………」



四代目は何も答えず、ただ黙ってカカシを見下ろしたまま。
表情には何も表れてはいなかった。
ただ、その瞳だけが何かを思い悩むような陰りを宿していた。


「センセ…」



するりと頬を撫で、項を強く吸い所有の印を刻む。


「カカシ、何があってもオレを信じてくれる?」

「………」


耳元で囁く声に覇気は感じられない。





「……結婚…するの?」


ピクッと四代目の身体が揺れた。
やはりそうなのか、あの噂は本当だったのか。



「…センセのこと……噂になってたんだ…暗部の中で。だから…」


どんな、とは聞かず、四代目はカカシを抱く腕に力を込めた。




「カカシ…カカシ…」



四代目は、何かから逃れるように、救いを求めるように、カカシの名を呼び、かき抱く。
カカシは、そんな四代目を受け入れるかのように、四代目の施す愛撫に身を任せた。




肌を重ねた熱も冷め、トロトロと微垂み始めた頃、四代目はカカシを見下ろすように両肘をついた。


「………赤ん坊が出来たんだ…」

「 ! 」


驚きのあまり声が出ない。青灰色と紅の瞳を大きく見開き、四代目を見つめていた。





「う…そ…。だって、結婚だって、まだ…じゃない…」


ようやく絞り出した声は掠れ、小刻みに身体が震えているのが分かった。


「センセは、汚い」



次いで出てきたのは、罵りの言葉。

結婚は噂になってたし、もしそうなれば、四代目は真っ先に自分に話すだろうと思っていた。
けれど、その前に子どもだなんて…。
自分とセックスしながら、女ともやってたのか。

無性に腹が立った。
それ以上に、自分が情けなかった。


四代目がどういうつもりで自分を抱いてきたのか、分からない。



「そんな女抱いて子ども作った手で、オレのこと触るな」


怒りと悲しみと。

自分に愛を囁き、己の身体を拓いた暖かい手。
その同じ手で、女も抱いていたのだ。あまつさえ、子どもまで作って…。


四代目の下でもがいた。

「離せよっ! もうオレに触るな!」






「…そうしようと何度も思った。…でも、出来なかった…」



しばしの沈黙の後、苦渋を滲ませた声で四代目は話し始めた。



「何度も思ったさ。この手でカカシを汚してはいけない…って、オレに繋ぎ止めてはいけないって。
でも、どうしても出来なかったんだ。カカシを失うのが怖かった…」


カカシを見下ろしながら話すその顔は恐ろしく真剣で、嘘ではないだろうと思わせた。

だが…




「そんなの勝手だ」


四代目をなじる声は弱々しく、ついにはそっぽを向いてしまった。

「ごめん……ごめん、カカシ…」


カカシに覆い被さり、耳元で謝罪する四代目は震えていた。


「でも、どうしてもカカシを手放せない…」

「 ! 何でだよっ! 結婚するんだろっ!? オレなんか邪魔だろ!? いない方がいいんだろっ!?」

パチンと音が響いた。

「なっ!」


カカシは頬を押さえ、四代目を見上げた。

カカシを見下ろす四代目の顔は苦しげに歪んでいる。みるみるカカシの瞳に涙が盛り上がる。
遂にはこめかみを伝い落ちる。
それを拭うこともせず、睨み付けるカカシ。


「判ってる。オレは酷い男だよね…。だけど、オレはカカシがいないと駄目なんだ。女を抱いたのだって、カカシが居なかったから…。生還率の低い任務で心配で…それを紛らわす為に…ごめん…ごめん…」



「赤ちゃん…出来たの、クシナ…でしょ? 好き、なの? 彼女のこと…」


「好き…って言うか…うん、ある意味、好きかな?」


その答えにカッとくる。
自分でも笑えるくらいだ。


「だったら、オレなんか必要ないでしょ」

「違うっ!」


突然の大声にビクッと身体が揺れる。
目を見開き、不安を隠さず見つめるカカシ。その頬を優しく撫で、髪に手を入れあやすように梳く。



「カカシ、オレは初めてお前に出会った時から、心はお前のものだ。お前以外に心を渡したことは無いよ。
お前はオレの唯一の安らぎなんだ。カカシ…カカシ、愛してる…」


「…ひどい…酷いよ、センセ…」


ポロポロと零れる涙は止まらない。


「うん…うん…酷いよね…ごめん…ごめんね」


その後もひたすら謝る四代目。
それで許した訳ではないけれど…。




「…もういいよ…」

「許してくれるの?」


「…許すとかじゃなくて…。オレは…」



よくわかんないや、と小さく呟き、ベッドから降りようとした。

「ど、どこ行くの?」

慌てて四代目はカカシの手を掴み引き止める。


「どこって、シャワー浴びて帰り…」

帰りますとは最後まで言えなかった。
四代目に唇を塞がれ、引き戻された。


「セッ、センセ…」

「愛してる。カカシ、愛してる」






「ずっと…ずっと傍にいて…」








end.
07.12.23






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