オレのもの
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「センセ…あの女(ひと)誰?」

カカシは目も合わせず聞いてくる。
その後ろ姿は、どことなく寂しげだ。


「あの女?」



「……昼間、一緒にいたじゃない。黒髪の…」

「ああ! 彼女!」


途端に明るい顔になり、笑顔まで見せる四代目。
その笑顔を目にし、カカシの心は重くなる。
四代目と自分の関係も、終わりになるのじゃないかと不安に支配されるのだ。

師と弟子、親代り、そんな関係を越えて恋人になった。
だが、その関係も異性との付き合いより儚い感じがするのは、同じ男だからか…。


カカシは、四代目に女性の恋人ができれば、自分は捨てられるのではないかと漠然とした不安を常に抱えていた。
そんな不安を余所に、四代目は喜々として女性のことを話し出す。


「彼女はねぇ、オレの同期だったの。前に彼氏が殉職してさ、辛い日々を過ごしてきたんだけど、また、新しく恋人が出来たんだって。近々、結婚するんだってさ」

「…え?」

「たまたま道で会ってさ。そんな話し聞いて…って、カカシッ!?」


カカシは話しの途中でその場から走り出し、寝室へと逃げ込んでしまった。


追いかけてみれば、カカシは頭からすっぽりと布団を被っている。

「カカシ、どうしたの?」
「やっ、やだ!! 見ないで!」



「見ないでって…カカシ、もしかして焼きもち妬いてくれたの?」
「………………」




カカシからの返事はなかったが、それを肯定するかのように布団をギュッと握りしめる。


「ねぇ、顔見せてよ。カカシ」

「やだ」

「ねぇ、カカシ。オレ、今、すっごく嬉しいんだ。カカシが嫉妬してくれるのって、滅多にないしさ。今、カカシのことすっごい抱き締めたいよ。こんな布団の上からじゃなくてさ。お願いだから、顔見せてよ」



それでも、かたくなに布団から出てこようとはしなかった。


「ふ〜ん。カカシがそういうつもりなら…」

心なしか、声が幾分低くなった気がした。

「とりゃっ!! これでどうだ!?」


バサッと布団を剥ぐ。

カカシは枕に顔を埋め丸くなっていた。

よっぽど恥ずかしいのだろう。耳から項にかけて真っ赤になっている。
「カカシ」と声をかけても身動き一つしない。

 


四代目はカカシの髪の中に指を滑り込ませた。見た目より、ずっと柔らかい銀色の髪。
その髪を梳きながら、「こっちを向いて」と言っても、ただ首を振るばかり。


埒があかないと、強引にカカシの身体を反転させれば…


「えっ!? カカシ…」

身体を四代目に向けられ、嫌でも師を見ることになったカカシ。
その瞳は涙は零れてはいなかったものの、赤くなり切なげに揺れている。


「どうし…」
「なんでもない…」


そう言うと、カカシは四代目の視線から逃れるように腕を交差させ顔を隠してしまった。

その腕に手をかけ顔から外せば、見るなと言わんばかりに顔を背けるカカシ。

「ホントどうしたの? オレ何か変なこと言った?」

「だから、なんでもないってば…」


「だったら、オレのこと見て」


有無を言わせないその言葉に、恐る恐るという風に四代目を見る。
その瞳はきょときょとと落ち着きなく動き、不安を滲ませていた。



「………カカシ…オレに恋人が出来たと思った?」

大きく目を見開くカカシ。
それに苦笑を寄越しつつ、カカシの唇に口付けた。

「オレは、カカシだけだよ」


聞いた途端、眉間にしわが寄り眉尻がさがる。救いを求めるような表情を見せた。


「信じてくれる?」


カカシは腕を延ばし、四代目に抱き付いた。

「…うん、信じてない訳じゃないけど…」

「けど?」


「…センセは…ずっとオレのもの? オレだけのセンセでいてくれる?」

「カカシ?」



「……いつか……センセは誰かのものに…なっ…て、オレなんか…」

だんだんと声に湿り気が帯びてくる。
首に廻している腕が震えているのは、気のせいではないだろう。



「…そう言うカカシは? ずっとオレのものでいてくれるの?」

逆に聞き返せばピクッと身体が震え、抱き付く腕に力が籠る。

「オレはっ…! ずっとセンセだけだ」
「オレもだよ」


即座に返す。カカシは腕の力を弛め、四代目の顔を驚いたという顔で見つめる。
そんなカカシに苦笑を零して四代目は囁いた。


「いつも言ってるでしょ? カカシだけだって。嘘なんかじゃないよ。カカシ、ずっとずっと、死ぬまで、いいや、死んでもお前を離す気はないよ」


そう言って、再び唇を重ねた。今度は深く、貪るように…。









不安が消えた訳ではない。
けれど、今はこの言葉を信じて。


弛めた腕に再び力を込めて、離れないよ、と態度で示すかのようにお互いを強く抱き締めあった。




end.
07.11.01






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