はじめまして
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うららかな春の陽射しの中、木の葉の商店街では道行く人々が足を止め、談笑しながら歩いて来る一団に魅入っていた。

それは木の葉に留まらず、国の外にまでその名を轟かせる三忍の一人、自来也と、その三忍を凌ぐと噂される天才忍者、木の葉の白い牙こと、はたけサクモ。
そしてその二人の後ろを歩く、二人よりは頭一つ分低い、だが、忍としてその才能は類い稀なく将来を嘱望される天才、金髪碧眼の美少年。


三人は人々の注目を浴びているのだが、慣れっこなのか、気にする風でもない。

三人が向かっているのは、サクモの一人息子、今年三才になるカカシの待つ家であった。

本当は一緒に連れて来ても良かったのだが、寂しい思いをした方がより喜びが大きくなるのではないかとの思いと、この前一人で夜中に家を抜け出し、父の帰りを待っていた(言い付けを守らなかった)ことによる罰として、留守番を言い渡してきた。

帰った時の、嬉しそうな、どこかホッとしたような笑顔を想像し、サクモはこっそり微笑むのであった。





カラカラと玄関ドアを開け、ただいまと声をかければ、奥からパタパタと可愛い足音を立てながら走ってくる。そしてちょこんと座り、手をついてあいさつをした。


「おかえりなしゃい、とーしゃん」
「うわ〜、えらいねぇ」


カカシの態度に思わず感嘆の声を上げる少年。


「…あ、え…と…?」


カカシは褒め言葉と、初めて見る、美少年と言って過言ではない少年の笑顔に言葉が出てこないようだ。
その様子に微笑みつつ、サクモは紹介してやった。


「自来也のお弟子さんだよ。『お月さま』みたいな人だろう?」

「初めまして、カカシ君。よろしくね」

「あ…はじめまして…」


ニコニコと笑顔で差し出す少年の手を握り返し、ポカンとした顔であいさつをするカカシ。


『おひさまみたい…』


それがカカシの第一印象であった。



居間に通され、腰を落ち着けると、サクモとカカシは台所へと消えて行った。
が、直ぐにカカシはお盆にコップや皿を乗せて戻ってきた。それをテーブルに置き、また台所へ行こうとした時。


「あ、オレも手伝うよ」


少年が立ち上がりかけると、それを遮るようにカカシが言う。


「おにーしゃんはおきゃくさまだから、すわってて?」
「え? でも大変でしょ?」
「だいじょうぶだから。ね?」
「あ…うん」


ね? と笑う顔がとても可愛くて、暫し見とれてしまった。
ぎこちなく腰を降ろすのを見て、カカシはパタパタと走って行く。

その姿も愛らしくて、自然と笑みが零れてしまう。

そんな少年の様子を、自来也はニヤニヤしながら見つめていたが、あえて何も言わなかった。

次にカカシは一升瓶を重そうに抱えて持ってきて、ドンとテーブルの上に置いた。
その酒を見て、声を上げたのは自来也である。


「おおっ! カカシ!! この酒は!」
「とーしゃんがとっときのおしゃけだって」


『とっとき…ってとっておきの事だよね? 言葉も幼くて可愛いや。小さい子って、こんなに可愛いかったっけ?』


少年の青い瞳には、フィルターでもかかってしまったのか、カカシのすることなすこと全てが、可愛く見えてしまっているようだ。


カカシはというと、育ての母(サクモの双子の姉)が病死して以来、ほとんど一人で過ごしてきた家に、父以外の人が来ているということに、嬉しさを隠せないでいる。
3才という幼子の、口には出さないが、いつも寂しさを感じていたのだろう。嬉しくて堪らないといった思いが全身から滲み出ている。
いつも以上に張り切ってサクモの手伝いをするカカシであった。


やがて、カカシとサクモがお盆に沢山のつまみを持って戻ってきた。


「カカシ、障子を開けなさい」


はいっ、と元気よく返事をしてカラリと開けると、庭に一本の桜の木が薄紅色の花をいっぱいに咲かせていた。
サクモの家は里の外れにあり、人の通ることもほとんどなく、ひっそりとしていた。
そこに周りを緑で囲まれ、一本だけ色づく桜はとても美しく映えている。


「たった一本で寂しいけどね。綺麗に咲いたから、花見も兼ねていいだろう?」


いたずらっぽくサクモが笑う。


「ホント綺麗ですね。あ、そだ。カカシ君にお土産。はい、どうぞ」


手渡されたのは大きな箱3つ。




「ありがと、おにーしゃん。あけてもいい?」
「どうぞ〜、開けて開けて」
「うわあ!すごい!」


箱の中は──沢山のケーキがびっしり。
2つの箱には、それぞれ20個程のケーキが入っており、もう1つには、和菓子がやはり20個程入っている。


「カカシ君、何が好きか分からなかったから、お店にあったもの一個ずつ入れてもらったの。全部食べていいからね」

「……………」




ニコニコと笑いながら話す少年を、3人共呆れ顔で眺めている。


「どうしたの? ケーキ嫌いだった?」
「う…ううん…だって、こんなにいっぱい…」


「まったく、アホが、呆れるわ…。もう少し加減てものを考えんか」


自来也が呆れて言う。


「いいじゃない。沢山あった方がいろんなの食べられて」

「おにーしゃん、これぜんぶたべれるの?」
「そうだよ。カカシ君、全部食べていいからね」


それはもう本当に嬉しそうに、語尾にハートマークが山のように出ているであろう楽しそうな言い方だった。



「まったく良く言うわ。これ全部一人で食えるのはお前位のもんだ」
「…やだなぁ、自来也。いくらオレでもこれ全部は無理だよ?」


ジロッと自来也を見る目は些か座っている。


「ぼく、おしゃらもってくる!」


とてとてと台所へ駆けて行くカカシ。が、少しして困った顔をして戻ってきた。



「…とーしゃん…とどかない…」


幼すぎる為、椅子に乗っても皿のある所に手が届かないのだろう。


「あ、オレが手伝ってあげるよ」


そう言って金の髪の少年が立ち上がる。

「え? でも…あ」
「遠慮しないの。案内してね。こっちでいい?」
カカシをひょいと抱き上げ、先程カカシが駆けて行った方へとスタスタ歩いて行く。
その様子をあっけにとられて見守っている大人達。


「彼が子ども好きとは知らなかったな」
「儂もだ。普段、あいつは愛想はいいが、人懐っこくはねぇしの。あんなに懐くのは初めて見るわ」


銘酒を口に運びながら談笑していると、二人が戻ってきた。


「あ、先生達、もう飲んでるの?」
「お前が一緒だと直ぐ無くなってしまうからのぉ」
「酷いなぁ。人を大酒飲みみたいに」
「その通りだろうが」
「おにーしゃん、おしゃけのめるの?」


カカシが不思議そうな顔で聞いてきた。
カカシにしてみれば、未成年である少年が大人と同じように酒を飲めるというのが不思議でもあり、凄いと感心するものでもある。

しかし、金の髪の少年が酒を飲むようになったのは、何も興味本意からではない。自分の身を守る為に飲むようになったのだ。
忍の任務は、実にやりきれない思いをするものも多々ある。その思いを紛らわす為、酒を飲んで反対に飲まれてしまい、翌朝、同僚ととんでもない事になっていたという事も多々あるのだ。

まして少年は、その容姿から目をつけられる事も多い。だから、酔って意識を無くし、既成事実を作られる事のないよう、酒を飲む練習を始めたのだが、これが意外な結果が出た。
かなり強かったのだ。これには、酒の訓練に付き合った自来也も呆れてしまった。
以来、自来也と共に酒の席に同席することも度々あったが、酔い痴れて羽目を外すという事もなく、無事に過ごしてきた。


「うん、カカシ君。オレって強いみたいだよ」
「わ〜、すごいね〜」


カカシは、少年がまだ子どもなのに酒が飲めるという事、しかも強いという事に凄く感心している。



「カカシ、彼はお酒だけじゃなくて、忍としても強いんだよ」


サクモのこの言葉に、カカシは尊敬の眼差しを向ける。
少年はカカシからの眼差しに、擽ったいような、誇らしいような思いを感じていた。



少年にとってカカシは、闇の中で足掻いていた自分に一条の光を灯してくれた子である。カカシによって救われ、この子によって強くなると誓ったのだ。

その幼子から向けられる眼差しに尊敬が込められれば悪い気はしないし、寧ろ、飛び上がらんばかりに嬉しいものだ。


「さあ、カカシ君。どのケーキから食べる?」
「ん〜と、どれがいいかなぁ?」










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