内緒の悪戯
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オレのカカシは泣かない。──だから、泣かせたくなってしまう。


捻くれてる? だけど人間そんなモンだろう?

それにね……












休みの日は、カカシと一緒に修行することが多々ある。今日も一緒に演習場で修行中だ。


カカシは教えを飲み込むのが早い。頭の回転も良く驚く程だ。
調べはしなかったけど、IQだって人並み外れているんだろう。だから6歳で中忍になんてなれたんだ。
だけど、やっぱりまだ幼い子供には変わりないから。


カカシ自身はその能力があっても、周りの大人達が良い気分はしないだろう。いや、大人じゃなくても、下忍に成り立ての子達だって、自分より年下の(しかもその年齢は自分の半分くらいの)子に命令されるのは、癪に障るんじゃないか?

実力世界ではあるけど、やっかみだってそれなりにある。それで任務に支障が来たら大変だし、第一、カカシが傷つくのはもっと嫌だ。
だから、オレはカカシが中忍に昇進した時、秘かに三代目に願い出たんだ。
今後も出来るだけカカシと同じ任務を回してくれるように。それに、まだまだ教えたい事も沢山あったしね。
三代目もそこら辺の事は心得ていて、快く承諾してくれた。


かと言って、全ての任務が一緒だった訳じゃない。
オレにAランク以上の任務が回ってくる事も多かった。なので休みが合わない事も度々で。
こうして、一緒に休みが取れるのも、今や貴重な時間となってしまった。





修行はカカシのレベルに合わせはするけど、手は抜かない。そんな事はカカシも喜ばないし、オレもカカシを強くしてやりたいから。

カカシが更に強くなれば、幼いってだけで、無視や嫌がらせなんか出来なくなるだろう。
所詮 実力が物を言う世界。強くなくちゃ生き残れない。



残る問題はカカシだ。
何が問題かと言うと──
性格は元々素直だから、教える事も素直に吸収していくし、術に於ては何の問題も無いんだけど…。


問題は、甘えてこないんだよっ!!

おまけに我慢強いときた。
オレはもっと甘えて欲しいんだよなぁ…。




よく先輩達が、休みの日くらいゆっくり休みたい、とぼやいてるのを耳にする。子供に遊んでとせがまれるそうだ。口調はぼやきだけど、やはりどこか幸せそうに見える。

でも、カカシには遊んで≠ニせがむ相手は、もう居ない。
せがみたくてもせがめないし、例え居たとしても、この子は気遣ってせがみはしないだろう。

そんなだから、余計甘えさせてやりたいと思うんだ。

なのに!!

カカシったら甘えてこないんだよ。甘え方を知らないのかもしれない。
だからそれも教えてやらなきゃ!


この前、自来也にカカシが甘えてこないって愚痴ったら、お前はもう充分だと言われたっけ。
充分じゃないよ、全然足らないよ。



そんな事を考えながら修行していたら、後ろにいたカカシが失速したみたいだ。だんだん気配が遠ざかっていく。
やっぱり小さいから、体力はそれなりだよな。
オレは立ち止まり、カカシが追い付くのを待った。カカシが来たら休憩にして、持ってきたお弁当でも食べよう。



暫く待って(少し遅いなと思いながら)、漸くカカシが追い着いた時、僅かに血の臭いがした。


「遅くなってすみません」


謝るカカシ。けれどそれ以上の言葉は出てこない。まあ、元々口数の多い子じゃないけど。
だけどこの血の臭い…。


「カカシ、怪我したの?」
「…………」
「血の臭いがするけど?」


そう言われたら白状するしかないだろう。それなのにカカシったら


「…かすりキズです」


こんなに血の臭いをぷんぷんさせながら、そんな事言うんだ。


「見せてごらん」


カカシの腕を引っ張ると痛みに顔を歪ませたけど、声には出さなかった。…意地っ張り!

どうやら怪我をしたのは腕のようで、応急処置をした包帯の上から血が滲んでいる。


「…カカシはどうしてオレに怪我した事言わないの?」
「………」



分かってる。
言わない≠じゃない、言えない≠だ。


「ねぇ、カカシ。そうやって怪我の報告も出来ないんじゃ、一緒に修行なんて出来ないよ?」
「えっ?」


驚きに大きく目が開かれる。

「だって、そうでしょ? そうやってカカシが怪我するって事は、そこがカカシの弱点だからでしょ。
それが判れば、オレはそれを克服させる為のプログラムを組んであげられるし、その他にもいろいろとしてあげられるけど、そうやって黙っていられたら、何も出来ないじゃない…」


オレの話しを聞きながら、カカシの目にはみるみる涙が溜っていく。
泣き出す前に、口がへの字に曲がるんだ。
この顔がすっごく可愛いんだよ!!
その顔が見たくて、態とカカシを泣かせようとしてしまうんだ。

これはカカシには内緒だけどね。



「ごっ…ごめ…な…」


口を開いたらポロポロと涙が溢れてきて、上手く言葉にならなかった。
 

それでも、カカシは一生懸命言葉を紡ぐ。


「オ…オレ…ヒック…心ぱ…かけヒック…なくて…よ…弱…いって…お……ゎ…」
「カカシ…」


オレは膝まづいて、カカシを抱き締めた。
カカシはオレに心配かけるのが嫌で、自分が弱い忍だと思われたくなくて、言うことが出来なかった。
ホント可愛いね、カカシ。


「分かったよ、カカシ。でもオレは、報告されない方が心配になっちゃうんだ。だから、これからはちゃんと言ってね?」


しゃくりあげながら、コクリと頷く。
オレは、カカシが泣きやむまで背中を摩ってやり、泣きやむと抱き上げた。


「わっ、センセ、下ろして」
「ん〜、だめ。このまま病院へ連れて行くから。オレの方が移動早いからね。ちゃんとつかまってて」


語尾にハートマークが沢山付いてるだろうもの言いでカカシに告げると、病院へ向かった。





手当てを受けているカカシに、怪我をした理由を聞いた。


カカシは全速で移動中、獲物を狙って急降下してきた鳥を避けようとし、バランスを崩して上手く次の枝に移れなかったそうだ。とっさに近くの蔦につかまったものの、それが切れてしまい、近くの木に激突したらしい。そこで折れていた枝で切ってしまったという。

カカシは鳥を傷つけまいとして、避けたんだろう?優しいね、カカシは。







カカシが怪我をしたから、午後の修行は中止。
でもせっかく作ったお弁当があるから、里を見下ろす火影岩の上に行って、お弁当を広げた。
おにぎりを頬張りながら、カカシが言ってきた。


「センセ…ごめんなさい」
「ん?何が?」
「…あの、ケガのこと…言わなくて…」
「ん、もういいよ。今度からちゃんと言ってくれるんでしょ?」
「はい」
「んふふ〜」
「わ、センセ、何?その変な笑い」
「あ、傷つくな〜。いや、あのね、カカシ君ったら、可愛い顔してるなーと思ってね」
「ひどっ」


さっき、はいと答えた時のはにかんだような、困ったような顔も可愛かったけど、ぷうっと頬を膨らませた今の顔も可愛いよ。


「今日の修行はおしまいだけど、次の修行の時は手加減しないからね」
「はい!」


手加減しない≠ニいう言葉に気を良くしたのか、笑顔で返事をしてきたカカシ。うん、やっぱり笑顔が一番可愛い。ホント、どんな顔しても可愛いね。



でも、あのへの字口になった顔もまた見たいから、またいつか泣かせちゃおうかなと思うのを止めることは出来なかった。







end.
07.02.24






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