1/25の贈り物1P/1P
小さな影が土手の上にちょこんと座っている。そして、その小さな体には似合わない大きな溜息をついた。
「どうした?こんな所にいると風邪ひくぞ」
大きな溜息が気にかかり、偶々通り掛った自来也が声をかけた。
「あ、自来也先生、こんにちは」
「何やっとるんだ?」
「センセと待ち合わせ。修行見てくれる約束なんです」
「あいつは遅刻か?それで溜息ついとったのか?」
「違います。あとちょっと時間はあります。ため息は…」
少し口ごもり、そのまま川の流れを見つめている。暫くして
「センセってば、オレのこと子供扱いするんだ…」
ポツリと言った。
お前は充分子供じゃないかという言葉は飲み込む。
「お前は大人扱いされたいのか?」
「だって、オレ中忍だよ?Aランク任務だってやるときあるのに……」
「そうぼやくな。あいつはお前を甘やかしたいんだ。甘えてやれ。喜ぶぞ、今日はあいつの誕生日だし」
「えっ?」
その時、一陣の風が起り、お待たせの言葉と共に金色の髪の青年が(といっても、まだ少年の部類に入る年だが…)現れた。
「ごめんね〜、待たせちゃって。じゃあ行こうか」
とカカシの手を取り行きかけたのだが、振り返り
「あ…と、自来也、三代目が呼んでますよ」
言い残すなり、カカシと共にドロンと消えていった。
* * * * *
修行の帰り道、商店街に差し掛かろうとした時、カカシが口を開いた。
「センセ…お願いがあるんだけど…」
「ん、何?」
カカシからお願いするなんて珍しい、と内心喜びつつ、目線を合わせる。
「オレ先に帰るから、センセはオレが帰ってから一時間くらいしてから帰ってきて?」
「え?何で?」
「…だめ?」
そう言われて、上目づかいに見つめられると嫌とは言えなくなってしまう。
カカシは無意識なのだろうが、時折フッと子供らしさを見せることがある。
見つめる眼差しが可愛くて、何でも願いを叶えてやりたくなってしまう。ましてやそれが、滅多に言わないカカシの我儘なら尚更に。
「いいよ。じゃあ一時間後ね」
「うん」
にっこり笑って走り去って行く。その後ろ姿に将来の期待と不安が混じる。
カカシは強くなることに貪欲だ。どんな任務も完璧にこなそうとする。
父親の失脚から尚更その思いは強くなった。多分、そうすることで父の名誉が回復すると信じているかのようだ。
だが、悲しいかな、人は死んだ人間の事は忘れていく。
そうすることで悲しみから立ち直ろうとするのだろう。そして人の口の端に昇る事も減っていくのだ。
カカシには、まだそれが解っていないのかもしれない。できれば早くそれに気付いて、自分らしく生きていって欲しいと思う。
あの子は忍だから、弱くては生き残れないけど、力だけ強くても駄目なんだ。心も強くないと。
その為ならどんな事でも惜しまないから。だから、もっとオレを頼っていいんだよ、カカシ…。
青年がそんな事を考えながら里内をフラフラしている頃、カカシはたくさんの荷物を抱え家へと急いでいた。
家へ着くと早速料理に取り掛かる。
子供なカカシは大人より些か時間がかかる。
何せ台所は大人仕様。子供のカカシには少し高い。だから、ちょっと椅子のお世話になる。
せっせと準備をし、ご飯のスイッチを入れたところで青年が帰ってきた。
「ただいま。…あれ?ご飯の仕度終わっちゃったの?」
「おかえりなさい。うん、今スイッチ入れたトコ」
「そっか。ありがとね。お風呂には入った?」
「ううん、まだ」
「じゃあ、一緒に入ろ。出る頃には炊き上がるでしょ」
一緒にいる時は共に入る決まりとなってしまった入浴。お互いの背中を流しっこし、ゆったりと湯につかる。
「オレ先に出るけど、カカシ君はちゃんと温まってきなさいね。オカズ作っとくから」
「待って、センセ。今日はオレが作りたい」
そう言われてマジマジとカカシの顔を見てしまった。一体今日はどうしたのだろう?こんなにカカシが我儘を言ってくるなんて。
カカシは、不安そうに目をキョトキョト動かしている。にっこり笑って いいよと言うと、パアッーと顔が輝く。
こうして見せる年相応の顔や仕草が堪らなく可愛い。
「じゃあ、オレはカカシの手伝いするね」
「ダメ。センセはできるまでテレビでも見て待ってて」
リビングに追いやられ、仕方なくテレビをつけるが、気はカカシの気配を探る事に集中され、画面は見ていなかった。
台所に行ったカカシは、椅子を動かしながら何やらやっているようだ。
気配を探りながら、皿なんか割ってもいいから、どうか怪我はしませんようにと祈る。
暫くしてカカシが呼びに来た。
「センセ、出来たから来て」
カカシと一緒に台所へ行くと、そこに置いてあるものに驚き、足が止まってしまった。
テーブルの上に何枚もの大皿が並び、その上に寿司が乗っている。ネタはきれいに切り揃えられているが、下のシャリは大きさはまちまち。カカシのこの小さな手で一生懸命握ったのだろう。
そして真ん中にケーキ。ケーキの中央にチョコのプレートがあり、それには下手くそな字でおたん生日 おめでとう≠ニ書いてある。
ああ、この字はカカシの字だ。ケーキは職人が作ったものみたいだけど、お祝いの言葉はカカシ本人が書いたんだ。
それらを目のあたりにし、大きく目を見開いたままカカシを見る。カカシは少しすまなそうな顔をしている。
「オレ、センセのたん生日が今日だって知らなくて…。だから、プレゼント用意してなくて…」
「カカシッ!!」
青年は喜びに顔をくずし、カカシを思いっきり抱き締め、抱き上げた。
「ありがとう、カカシ。嬉しいよ。こんなに素敵なプレゼント貰ったの初めてだよ!」
「え?だからオレ、プレゼントないって…」
「何言ってるの。こんなに用意してくれたじゃない。これ、カカシが握ったんでしょ?あの字も、カカシが書いてくれたんでしょ?」
「…うん…」
「カカシがそうやってオレの為にしてくれた事が、何より嬉しいよ。最高のプレゼントだよ!」
ありがとうとカカシの額にキスを落とす。カカシは擽ったそうに笑った。
「じゃあ、早速頂こうか?」
テーブルに向かい合せに座り、手を合わせる。
「いただ…」
「あ、待ってセンセ。忘れもの」
カカシが椅子を降り、青年の許にトコトコやって来る。そして椅子に足を掛け、青年の目の高さに合わせ昇る。
「センセ、おたん生日おめでと」
恥しそうに微笑んで、青年の頬にチュッとキスをした。
カカシにとって、いつもされるばかりのキス。
今日、生まれて初めて、自分からキスを贈った。
青年にとって、いつもしてばかりで返ってくることのないキス。
今日、カカシから初めて贈られたキスは、最高の誕生日プレゼントとなった──。
end.
07.01.11
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