四さまの子育て奮戦記
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「オレ、ベッドが欲しい」


カカシに欲しいものはないかと聞くと、こんな答えが返ってきた。


「え?ベッド?何で?」
「何でって、…オレ、一人で寝れるし…」
「一人でって、オレと寝るのヤなの?」

「そうじゃなくて…」

「オレはカカシと寝たいよ? あ、もしかしてオレ寝相悪かった?」
「ううん、そんなことないよ」
「じゃあ何で?」
「だから……もう小さい子じゃないし…」
「小さいじゃない。まだ8才なんだし」
「…………」

「ね、カカシ。オレはお前と一緒に寝たいんだけど、ダメ?」

「…いいよ…」



青年と少年のある日のやりとり。
プレゼントに何がいいか聞かれ答えたのだが、結局却下されてしまった。
少年は青年の頼みごとに嫌とは言えなかった。青年のことが大好きだったから。
結局その日は、考えておくということで終わった。







幾日か経ったある晩、青年は屋台にて酒を飲んでいた。そこへ、彼の師である自来也が通りかかった。


「よお、珍しいのォ。お前がこんな所で飲んどるなんて」
「自来也…」
「先生と呼べ。まったく二人きりだと、師を師とも思わんヤツだ」
「ま、日頃の行いの所以でしょう」
「可愛くないのォ。お前の弟子はちゃんと礼儀をわきまえとるのに」
「あー、……」


ぐいっと杯を呷る。


「なんじゃ、どうした?」

「カカシ…ベッドが欲しいって言ったんですよ…一人で寝たいって…」
「買ってやりゃあ いいだろうが」
「そりゃ、買ってやるのは簡単ですよ? でもあの子、甘えてこないから…」

「…今でもお前は充分甘やかしとるではないか」
「“自分から”甘えてこないんですよ。まるで甘え方を知らないみたいに…」
「そりゃ、お前、父親に甘えるのと訳が違うだろーが」

「そうですけど…。カカシ、怪我しても言ってこないんですよ。熱出して苦しくても。一人で抱えちゃって…
あの子は我慢強いから、泣かないんですよ。まあ、忍がピーピー泣くようじゃ困るけど、泣いてもいい時でも泣かない…泣けないと言った方がいいのかな。
…夢の中で啜り泣くんですよ。夢の中でしか泣くことが出来ない…泣いているあの子をせめて、抱きしめてあげたいじゃないですか…」
「それで、同じベッドという訳か」
「ええ、まあ。あの時から人に甘えることをしなくなったカカシに、人に頼っていいんだって、熱で苦しい時も、傷が痛む時も頼っていいんだと、泣きたい時は泣いていいって教えたかったんですけどね…」



はあと大きく溜息をつき、杯をまた呷る。傍らを見れば、一升瓶二本が空になっている。


「おい、飲みすぎじゃねぇのか?」

(やけに素直に話すと思ったら…)

「え? 大丈夫ですよ、二本くらい…。あ〜あ、オレはもっとカカシに甘えてもらいたいんです」
「それは儂じゃなくて奴に言うんだの」

「…わかってますよ…」


そのまま二人は黙って杯を酌み交した。


「さてと…儂はそろそろ帰る…」
「センセ?」


自来也が立ち上がろうとした時、後ろから声がかけられた。


「カカシ!?」
「あ、自来也先生、こんばんは」
「おお、今帰りか?」
「今日はオビトん家に行ってたんです」
「リンは? ちゃんと送ってきたの?」
「はい」
「カカシ君、ご飯は?食べた?」
「あ、はい。ごちそうになってきました」
「そう、良かった」


『まるで父親というより、母親のようだのぉ』


こっそり胸の中で呟く自来也。


「あ、じゃあ自来也。オレ達これで失礼しますね。
カカシ君、手ぇ繋いで帰ろっか?」
「え?」
「おお、そうしろ、そうしろ」


なかば呆れ返って自来也が言う。


差し出された手におずおずと手を繋ぎ、並んで帰る。青年の顔は至極嬉しそうだ。



それを見送って、自来也はハッと気付く。


「あ!おい!金置いてけ!!」







帰り着いてから、青年は多いに酒を飲んだ事を後悔した。それは──


「ね、センセ。オレ、今日はソファーで寝ていい?」


こんな事をカカシが聞いてきた。


「何で!? そんなにオレと寝るのヤなの?」
「そじゃなくて…だってセンセ、酒くさい…」


一升瓶二本も空ければ相当なものだろう。ましてカカシは人一倍鼻がいいのだ。かなり辛いだろう。


「ごっ、ごめんね! あ、じゃあ、オレがソファーで寝るから、カカシ君はベッドで寝て?」
「ダメだよ。センセのベッドなんだから、センセがベッドで寝なきゃ。それに、オレ、ソファーで寝てみたい」
「だめだめ。ソファーじゃ良く眠れないでしょ。カカシ君はベッドじゃなきゃダメ」


押し問答が始まった。仕方なくカカシが妥協案を出した。


「…あの、じゃあ…オレが先に寝るから、センセはオレが寝てから来て?」
「ん、わかった」



カカシを先に寝室に行かせてから、青年は考え込んでしまった。
やっぱりカカシにベッドを与えて、一人で寝かせた方がいいのだろうか?
甘えてこないカカシは、増々甘えなくなるのではないか?

カカシと暮らし始めて一年半。
漸く素直に笑顔を見せるようになったのに。また元に戻らないか?

考えても答えの出てくる問でもなく。
カカシが寝入った頃を見計らい行ってみれば、あどけない顔をして寝ている。
もし、ベッドを買ってカカシが別の部屋で寝ることになったら、このあどけない顔を見ながら寝ることも、カカシを抱きしめて眠ることも出来なくなってしまうのだ。それはちょっと、というかかなり寂しい。
抱き納めかなぁと思いつつ眠りについた。







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