かたちあるもの
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誰もいない家に帰ってくるはずだった。
なのに、窓からは灯りが洩れ魚を焼くいい匂いがしている。

『また、さぼったな』

カカシは家に入る手前で大きく溜息をついた。といっても、此処はカカシの家ではない。
四代目が火影になる前に住んでいた家で、カカシは父の死後一緒に生活していた。

四代目に就任し、火影屋敷に居を移してもちょくちょく帰っては来ていた。
特にこの春、桜の下で愛を確認しあった後からは殆んど毎日といっていいくらい帰って来ていた。それが嬉しくない訳がない。
が、仕事が溜るのだ、只でさえ飽きっぽくデスクワーク嫌いの火影なのに。

もう一つ大きく溜息をついてドアを開けた。

「ただいま」
「おかえり〜」

間の抜けたのんびりとした声で四代目はカカシを迎えた。


「センセ、仕事は?」
「ん?ちゃんと終わらせてきたよ」
「えっ?」


思いっきり驚いた。
いつも30分もすれば飽きてしまい、抜け出そうとして嫌々仕事をするから真夜中まで掛るのに、あろう事か終わらせてきた?
まるで信じられない言葉を聞いて目を丸くするカカシであった。


「やだなあ、カカシ。今日は特別な日だもん、きっちり終わらせてきたよ。邪魔されたくないからね」
「特別な日?何の日だっけ?」
「カカシ〜」


カカシの答えに四代目は頭を抱えてその場に蹲った。


「カカシ、今日は何月何日?」
「今日?エッと、9月……じゅう…ごに…あっ!」


顔を真っ赤にし、カカシは四代目を見た。


「まったく、ど〜して毎年忘れるんだろうねぇ、この子は」
「ごっ、ごめんなさい…」
「まあいいさ、任務、任務で忙しいからね。さ、お腹空いたろう?」



カカシをキッチンへと連れていき座らせる。
テーブルには秋刀魚の塩焼と茄子の味噌汁とサラダ、そして中央に少し歪な形のケーキが置いてあった。


「豪華な料理は作れないから、せめてケーキだけでもって思ってね。でも、ケーキってむずかしいね」


照れくさそうに話す四代目の気持ちが、カカシにはとてつもなく嬉しかった。
忙しい仕事の合間をぬってカカシの為に用意をしてくれる。カカシにはそれだけで十分すぎるくらいだった。




「カカシ、誕生日おめでとう」
「ありがと、センセ」

心からの感謝を込めて礼を言うカカシ。そんなカカシをいとおしそうに四代目は見つめた。
あんまり見つめられるもので恥ずかしくなり、ぐいと水を飲もうとしたが口に近付けたそれは水ではなかった。


「…セッ、センセぇ、…これ…」
「ああ、いいでしょ。カカシはれっきとした上忍なんだから」
「だからって、オレ、14だよ?」
「いいじゃない。昔なら13で元服なんだし」


悪びれもせず四代目は言う。
それに苦笑しつつ、一口、口を付けてみた
初めて飲むお酒はほんのりと甘く感じられた。





食事を終え後片付けを済ませると、四代目は頬を少し染めながら、リボンに包まれた小箱を差し出した。


「これ、プレゼント」
「ありがと。開けていい?」


カカシは箱を開けるとそのまま固まってしまった。

中には大きさの違う指輪が一つづつ入っていた。
銀色に輝くプラチナ台に周りを金で縁取ってあるもので、まるで二人を象徴するような感じである。


「センセ、これ…」

「うん。記念にね、何か形で残るものって思ったら、これしか思いつかなかった。内側、見てみて」


中には数字とイニシャルが彫ってある。


「カカシが付ける方にはオレの登録番号とイニシャル、で、オレの方にはカカシの登録番号とイニシャル。どう?」


四代目は目をキラキラさせながら悪戯っぽく笑った。


「センセっ!」


カカシは思わず四代目に抱きついた。


「嬉しい、ありがと…センセ…」


カカシの目にうっすらと滲むものがあった。四代目は、そっと唇でそれを拭い、そのまま四代目の唇は下に降りていき、カカシのそれを塞ごうとしたとき──


「センセ、これ付けてよ」
「ん、じゃあオレにはカカシが付けて」
「うん」



お互いの薬指にはめる、なんか結婚式みたいだとカカシが思っていると、

「ふふ、結婚式みたいだねぇ」

四代目は凄く嬉しそうに言い、カカシに微笑む。


「愛しているよ、カカシ」
「うん、オレも…愛してる…センセ…」




カカシは四代目の首に腕を伸ばし唇を重ねる。優しく啄むように、だんだんに深く激しくなって、お互いを夢中で貪る。やがてカカシの口から甘い吐息がもれ始め、そして ──






── 朝、ベッドから起き上がれないカカシがいた。










end.
06.04.08






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