あさき夢みし
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青年の白い頬にそっと手を添え、唇を重ねる。


「あなたが好き」


との言葉を添えて。
ただ唇を重ねるだけのキス。まだ少年の、誰とも交したことのないであろう幼いそれは、心に優しく届いてきて…。
少年の華奢な腰に腕を廻し、頭の後に手を添えて深い口付けを交す。
少年にとって、舌まで絡めて交すキスは初めてであったろう。
腰の力が抜け、青年に寄りかかる。そのままベッドの上にゆっくりと押し倒された。
角度を変え、強く吸われれば、もう何も考えられない。
少年の腕が青年の首に廻され、青年の手が少年の白い肌を弄っていく。


「…ぁあ…センセ…」


小さな声だった。が、その声に青年はハッと我に返る。少年に被さっていた体を引き上げ謝った。


「…ごめん、カカシ…お前まだ子供なのに…」
「センセ…?」
「ごめん…悪かった」


そう言ってバタバタと書斎へ逃げて行ってしまった。


「センセ!」


書斎のドア越しにカカシが呼ぶ。


「カカシ、ごめん。お前にあんなことしちゃいけなかった。お前…まだ子供で…弟子で…同じ男で…オレ親代わりなのに…」


それは、カカシの想いを拒絶する言葉だった。


「…センセ…ごめんなさい…オレ、センセを困らすつもりじゃ…そんなつもりじゃ…なくて…」


"センセ"と呼ばれた人物からは返事がなく。


「…迷惑かけてごめんなさい。あの…今までありがとうございました…」


言いたい事はたくさんあったが、上手く言葉にならず、それだけ言うのが精一杯だった。



「さようなら…」


ドア越しに別れを告げ、家を出て行くカカシ。
青年は追いかけることも出来ず、ただドアに寄りかかっていた。





その日以来、青年がカカシの姿を見ることはなかった。






















それは、青年が四代目火影へ就任する前の最後の遠征任務。
長引く戦争を終わらせる為の戦いだった。これが終われば、待ち望んだ平和が訪れる。
大部隊での行動となった。カカシも出陣していたが、青年とは別部隊であった。

この任務も何とか勝利に終わり、里への帰路に着いた。
大部隊というのは小隊と違って移動に時間がかかる。故に里まであと一日という所で夜営することとなった。
負傷者の為にテントが張られ、そこで手当て等受ける。所々に焚き火が焚かれ、交替で見張りに立つ。
カカシも見張りに立つことになっていたが、まだ時間ではなかった為、他の忍達と一緒に焚き火の周りに座っていた。


カカシが座っている一団の隣の焚き火の所に青年は座っていた。
久し振りに見たお互いの姿であったが、話しかけることもなく、ただ火を見つめていた。




そんなカカシの元へ一人の忍がやって来た。


「カカシ、部隊長がお前に怪我の治療の手伝いをして欲しいそうだ」


「………分かりました…」



怪我の治療とは名ばかり。これは暗に伽を意味しているのだ。

カカシは唇を噛み締め、ゆっくりと立ち上がる。
テントの方へ数歩 歩いた時、ほんの僅かだが殺気を感じ振り返った。
ほんの一瞬、青い瞳と目が合った。だが、次の瞬間物凄い勢いで目を逸らされた。それはカカシにとってもの凄いショックだった。
まさかこれ程嫌われているとは思っていなかった。
自分が好きになった相手から嫌われること程、辛いものはない。その辛い思いのまま、テントへ向かう。
テントへ向かう前に見せた今にも泣きそうな顔は、顔を背けてしまった青年は見ることはなかったが…。





見張りの時間になり行ってみると、すでに金髪の青年が立っていた。
その姿を確認した途端、カカシの足は止まってしまった。体に緊張が走り動けない。けれど、目は青年から離せず、擬視してしまう。
その視線に気付いたのか、振り返り笑顔を見せた。


「やあ、カカシ。久し振りだね」


かつて見ていた優しい笑顔。それでもカカシの足は根が生えたかのように、動かなかった。


「? どうしたの? こっちにおいで」


言われて、どうにか足を動かし歩を進める。が、今までのように青年の傍には行かず、少し離れた場所に立つ。
それに苦笑しつつ、話しかける。


「本当に久し振りだね。元気してた?」
「…はい…」
「そう、良かった」


それ以上会話が続かず、沈黙してしまう。
暫しの沈黙の後、青年が再び口を開いた。


「カカシ…テントから出て来たけど…ケガしたの?」
「…いえ…」
「じゃあ…」


また双方黙ってしまった。が、今度は直ぐにカカシが自嘲気味な笑みを浮かべ言った。


「…伽の…相手です…」
「…!…」

判ってはいたが、まさかカカシ本人の口から言われるとは思っていなかった。


「…別に…珍しいことじゃないでしょ?」
「うん…そうだけど…」


あまりに平然と言ってのけるのでカカシを見やると、カカシは俯いたままであった。


「センセはこうして大部隊で動いた時とか、たくさん人を倒した時も…伽なんて言わなかったけど…。でも、他の奴らは違う…興奮してて、目をぎらつかせて…」
 

衝撃だった。
まさか自分の知らないところで、カカシが伽をさせられてたなんて…。
何か言葉をかけてやりたいが、何と言っていいか分からない。
驚きに目を見開いたままカカシを見ていると、ゆっくりと顔を上げ、こちらを見る。
目を合わせられなくて、つい逸らしてしまう。その行為はカカシは勘違いをする。



『…センセ…。もうセンセはオレと目を合わせるのも嫌なんだね…。そうだよね…こんな伽なんて言われるオレなんか…汚らわしいよね…』





「すみません…オレ、見廻りしてきます」

いたたまれなくなって、その場を逃げるように去った。










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