朧月夜
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照りもせず曇もはてぬ春の夜の朧月夜にしくものぞなき





これを読んだ時、そんなに良いものなんて思わなかった。
オレはどちらかと云えば、春の月よりも冬の月の方が好きだ。冴え冴えとして、凛として、雲からうっすらと覗くよりも、冷たい光を放っている方がいい。



それと、そこの主人公があんなにも周りの人達から愛されていて、ちょっと羨ましかった。

オレは一人の人の心もままならないというのに……。



此処のところ、任務で擦れ違いの生活が続いている。それは仕方のないことだと思いつつ、寂しい思いをしていた。
センセが帰ってくるのは明後日の予定だ。その日、任務が入らなければいいな。


任務帰りそんな事を考えていると、目の隅に白くボウッとした物が写った。
何だろうと首を回して見ると、白い満開の桜の木であった。
白なんて珍しい。
一枝持ち帰り、センセに見せてあげよう。

近寄って行くと人の気配がしてギクリと体が強ばる。

が、直ぐその気配が自分の求めていた人のものである事が判り、思わず顔が綻んでしまう。


「センセ!」
「やあ、カカシ」


自分の名を呼び、嬉しそうに振り返るその姿は、薄明かりの中とても美しかった。
明るすぎもせず、かといって暗くもなく、ほんのりと柔かい光を浴びて桜の下に佇む姿は幻想的でもあった。


そう見えてしまうのは、何も彼に恋をしているからばかりでもない。
里でただ一人、金の髪を持ち、青い瞳は冷たい光を湛えどこまでも澄んでいる。容姿端麗で柔かい物腰は里の内外を問わず、美しいと評判であった。



その姿に暫し見とれていると、不思議そうな顔をして問いかけてきた。


「どうしたの?」
「…え?」
「オレの事見たまま何も言わないからさ」


いつもなら、何でもありませんと答え誤魔化そうとするのだが、何故か今日は素直に口を開く。


「あ…、この桜が…白くて……」
「うん」
「…センセにも見せたいなって……そしたら、センセが居て…」


センセがとても綺麗で…と言う前に、ミナトの手が延びて頬に触れる。触れるその手はいつも暖かい。
と、いつの間にかその手はカカシの背に廻り、抱き込まれる。驚いてミナトを見上げると唇を塞がれてしまった。


甘い口付けに目を見開いたまま動けずにいると、


「…カカシ…、キスの時は目を瞑ってよ」

「…あ、ごめんなさい……あんまり吃驚したもんだから…」

「え?…ああ、あんまりカカシが綺麗だからさ…」
「綺麗って……それはセンセでしょ」


センセはいつも突飛な事を言ってくる。

「もう、カカシ、いい加減自覚してよ」


センセこそ自覚して欲しい。
その青い瞳で見つめられて微笑まれたら…喜びに胸が満たされる。
その微笑みが自分だけのものでなくても、見つめられてる今は、自分のものだ。それだけで、嬉しい。


さっきのキスだって、センセにしてみれば、いつものキスと変わりないでしょ?
でも、オレは……

『センセが好き』。

それを告げることは怖くて出来ないけど。だって、今の優しい関係を壊したくない。
……今のままでいい…。



頬をうっすらと染め、潤んだ瞳で見つめるカカシをそっと抱き締め、想いを込めて囁く。


「カカシ…好きだよ…」


返事の代りにミナトの腰に腕を廻し、ギュッと抱きついた。







好きだと言ってもらえたからじゃないけど、センセをこの上もなく美しく照らしてくれた朧月が、ちょっとだけ好きになった。













 
end.
06.09.08






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