花 33P/3P
泣くことの出来ないカカシは、夢の中で泣く。
それも、少しだけしゃくりあげ、涙を流す程度だ。
きっと、夢の中でしか自分を開放出来ないのだろう。
そんなカカシの涙を拭ってやり、抱き締めて眠りに就く。
人の温もりを感じてか、カカシも泣きやみ、柔らかい寝息をたて始める。
それを聞きながら、オレも微睡みの中へ落ちていくのだ。
翌日、カカシは焼け落ちた我が家の前にいた。
まだ、ぶすぶすと些かの黒煙をあげている中、カカシは記憶を頼りに、父の骨壺を探していた。
熱の残る柱や残骸を掻き分け、必死になって火傷するのも構わず探している。
漸く探し出したそれは、無残にも割れてバラバラになってしまっていた。
それを一つ残らず掻き集め、持ってきた袋に詰めると、あとは後ろを振り返る事なく師と暮らす家へと帰って行った。
カカシがどんな思いで父親の骨を探していたか…。
カカシとて、その思いの全てを言葉で表現することは出来ないだろうが…。
忍の社会をどう思ったろう?
里を人々を恨むだろうか?
その小さな心に抱えきれない程の思いを抱いて、お前は何処へ行くというのだろう?
お前が、オレにとって掛け替えのない存在になったように、オレもお前にとってそのような存在になれたらいいのに。
ねぇ、カカシ。
一人でいるのは淋しいよ?
何でもかんでも一人で抱えないで、少しはオレに頼ってよ。
こんなにもお前の力になりたいって思っているから。
その思いの十分の一でいいから、オレにぶつけてきてよ。お願いだから…。
あれから5年の月日が流れた。
あの後、カカシは父親の骨をどうしたか、オレは知らない。
執務の合間をみて、ふらりと出かけた里外れの地。
人のあまり来そうにない小さな原っぱに、カカシはいた。
そこで白い小さな花を植えていた。
お前のことだから、オレが来ていることもとっくに気付いているんだろう?
いつもなら、早く仕事に戻って下さい!なんて言ってくるくせに、今日は言わないんだね。
「可愛い花だね。何ていうの?」
「さあ…ただ白かったから…」
「白?」
カカシは振り返りもせず、手を休めることもせずに言う。
何かあるのだろうか。
しばし手を休めていたが、また花を植え始めた。
持ってきた花全てを植え終わった後、花々に目を移し
「此処ね…父さんを散骨した場所なんだ…」
少し悲しげな笑みを浮かべ、静かな声で語る。
「踏み荒らされるの、嫌だったから……花なら──踏む人いないでしょ…」
幼かったカカシの悲しい想い──
大好きだった父親を埋葬出来ず、考えあぐねて此処に辿りついたのだろう。
毎年植えていたのだろうか? 父の為に──。
「あの火事の後…」
ぽつり、ぽつりとカカシが話す。
「焼け跡から、父さん見つけて…煤で真っ黒でさ、洗って干して……砕いて粉々にしたら………父さん、こんなに少なくなっちゃって…」
カカシは両手を、水を掬う時のように合わせ、じっと見つめる。
まるで、その掌の中に粉になった骨があるかのように…。
「里人のこと、恨んでる?」
オレは、くしゃっとカカシの柔らかい銀の髪を撫でた後、そっと抱き締めた。
「………わからない…。出来るだけ、考えないようにしてたから…」
おとなしくオレに身を預け、父へと想いを馳せるカカシ。
カカシ、お前の心は傷ついたままなんだね…。
未だ慰霊碑には刻まれぬその名。
その名が刻まれて、始めてお前の心は癒されるのか…?
「いつか…赦される時がくるのかな…父さん…」
何年も思い続けてきた、カカシの願い。
カカシは慰霊碑に名が刻まれる事は望んではいないだろう。ただ
──赦されること
それだけを望んでいるのだろう。
ささやかな、けれどカカシにとって大きな、願い。
「大丈夫。きっと、赦されるよ」
「…うん…」
end.
07.09.17
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