花 3
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泣くことの出来ないカカシは、夢の中で泣く。

それも、少しだけしゃくりあげ、涙を流す程度だ。


きっと、夢の中でしか自分を開放出来ないのだろう。



そんなカカシの涙を拭ってやり、抱き締めて眠りに就く。
人の温もりを感じてか、カカシも泣きやみ、柔らかい寝息をたて始める。
それを聞きながら、オレも微睡みの中へ落ちていくのだ。







翌日、カカシは焼け落ちた我が家の前にいた。



まだ、ぶすぶすと些かの黒煙をあげている中、カカシは記憶を頼りに、父の骨壺を探していた。

熱の残る柱や残骸を掻き分け、必死になって火傷するのも構わず探している。





漸く探し出したそれは、無残にも割れてバラバラになってしまっていた。


それを一つ残らず掻き集め、持ってきた袋に詰めると、あとは後ろを振り返る事なく師と暮らす家へと帰って行った。





カカシがどんな思いで父親の骨を探していたか…。


カカシとて、その思いの全てを言葉で表現することは出来ないだろうが…。




忍の社会をどう思ったろう?
里を人々を恨むだろうか?


その小さな心に抱えきれない程の思いを抱いて、お前は何処へ行くというのだろう?



お前が、オレにとって掛け替えのない存在になったように、オレもお前にとってそのような存在になれたらいいのに。



ねぇ、カカシ。
一人でいるのは淋しいよ?
何でもかんでも一人で抱えないで、少しはオレに頼ってよ。

こんなにもお前の力になりたいって思っているから。


その思いの十分の一でいいから、オレにぶつけてきてよ。お願いだから…。















あれから5年の月日が流れた。


あの後、カカシは父親の骨をどうしたか、オレは知らない。



執務の合間をみて、ふらりと出かけた里外れの地。
人のあまり来そうにない小さな原っぱに、カカシはいた。


そこで白い小さな花を植えていた。

お前のことだから、オレが来ていることもとっくに気付いているんだろう?

いつもなら、早く仕事に戻って下さい!なんて言ってくるくせに、今日は言わないんだね。





「可愛い花だね。何ていうの?」

「さあ…ただ白かったから…」
「白?」


カカシは振り返りもせず、手を休めることもせずに言う。


何かあるのだろうか。




しばし手を休めていたが、また花を植え始めた。
持ってきた花全てを植え終わった後、花々に目を移し


「此処ね…父さんを散骨した場所なんだ…」


少し悲しげな笑みを浮かべ、静かな声で語る。


「踏み荒らされるの、嫌だったから……花なら──踏む人いないでしょ…」



幼かったカカシの悲しい想い──



大好きだった父親を埋葬出来ず、考えあぐねて此処に辿りついたのだろう。
毎年植えていたのだろうか? 父の為に──。


「あの火事の後…」


ぽつり、ぽつりとカカシが話す。


「焼け跡から、父さん見つけて…煤で真っ黒でさ、洗って干して……砕いて粉々にしたら………父さん、こんなに少なくなっちゃって…」



カカシは両手を、水を掬う時のように合わせ、じっと見つめる。
まるで、その掌の中に粉になった骨があるかのように…。



「里人のこと、恨んでる?」


オレは、くしゃっとカカシの柔らかい銀の髪を撫でた後、そっと抱き締めた。


「………わからない…。出来るだけ、考えないようにしてたから…」


おとなしくオレに身を預け、父へと想いを馳せるカカシ。




カカシ、お前の心は傷ついたままなんだね…。



未だ慰霊碑には刻まれぬその名。

その名が刻まれて、始めてお前の心は癒されるのか…?





「いつか…赦される時がくるのかな…父さん…」



何年も思い続けてきた、カカシの願い。


カカシは慰霊碑に名が刻まれる事は望んではいないだろう。ただ

──赦されること

それだけを望んでいるのだろう。

ささやかな、けれどカカシにとって大きな、願い。







「大丈夫。きっと、赦されるよ」



「…うん…」








end.
07.09.17




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