はじめまして 2
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ワイワイと楽しい時間は流れていった。
楽しい時間というのは過ぎるのが早い。
カカシもそろそろ眠くなってきたようだ。目がとろんとしている。
その様子も何とも愛らしく、自然と笑みが浮かぶ。



「さて、そろそろ儂らは帰るとするかの」
「えっ? かえっちゃうの?」


帰る≠ニいう言葉に反応し、先程までの眠そうな様子はどこへやら、大きく目を見開くカカシ。

普段、一人で留守番を している事が多いカカシは、大勢で食事をするというのは初めての事であった。
いつも静まりかえっている家に、笑いが溢れていたのだ。だから、初めて経験した楽しい一時が、終わりを告げるのが寂しくて堪らない。
思わず目に涙を浮かべ、流すまいと必死に耐えている。


「あ…あのね…」
「おーお、カカシ。こんな事で泣いておったら、立派な忍にはなれんのォ」


カカシを泣かせたくなくて口を開きかけた少年だったが、その想いは自来也によって呆気なく砕かれた。

カカシは口をへの字にきゅっと曲げ、大粒の涙をポロッと溢すとパタパタと走り去ってしまった。
涙を流すカカシが可哀想で、泣かせた自来也に思いっ切り怒りを込めて一発、腹に打ち込む。

「カカシ君を泣かせた罰だよ、自来也」


少年はそう言うと、カカシの後を追って行った。
ううっと唸る自来也に、クスクスと苦笑しながらサクモが言葉をかける。


「からかうからだよ。しかし、君の弟子は容赦がないね」



サクモが自来也を助け起こした頃、少年はカカシの元へ辿り着いた。

カカシは自室に入り、しゃくり上げていた。袖で涙を拭いながら、何とか泣き止もうとしているように見える。
こんなに小さいのだから泣いたってちっともおかしくないのに、やっぱり忍の子なんだな、と妙に感心してしまう。



数週間前、自分が闇の中にいる事で苦しんでいた時に、己の心に光を灯してくれた子。
そしてその光は、今でも温かく心を照らしてくれている。
彼のおかげで、自分は闇に飲み込まれずに済んだのだ。


守りたい
強くなりたい


そう思わしめた子。
今日会って、更に可愛いと思い、その想いを強くした。大切にしていきたい、小さな光の子。


「カカシ君」


声をかけるとびくんと身体がはね、ちょっとだけ振り向き、直ぐ背を向けてしまった。


「ねぇ、カカシ君。カカシ君はちっちゃいんだから、泣いたっていいんだよ? 泣いたって誰も笑わないよ?」

「……うっ…ヒック…だ…め…ヒックぼ…ぼく…… しの………なる…ヒック…から…」


小さくても、プライドは一人前だな。

必死に涙を止めようとするカカシが可愛くて。
少年はカカシを抱き寄せた。そしてポンポンとあやすように優しく背中を摩ってやる。
すると、父親以外からそんな事をされたことのないカカシは驚き、身体が硬直してしまった。と同時に驚きのあまり、涙も止まったようだ。
少年は暫く幼子の温もりと匂いを満喫し、ゆっくりと腕をほどいた。


「ん、涙は止まったね」


にっこりと微笑む少年に、カカシは見とれてしまっていた。


「今日は帰るけど、カカシ君さえ良ければ、また来るよ」


そう笑いながら言う少年に

「うん、きっとだよ?」


つられるように笑顔で答えるカカシ。


その溢れるような笑顔に、ほわっと心が暖かくなるような気がした。

実は、先程見せた泣く直前の口をへの字にした顔も可愛いと思った自分がいる。

多分、自来也もその可愛い顔が見たくて、わざと泣かせるように言ったのだろう。



誰かを可愛いと思うのも、少年にとって初めての事であった。
任務で小さい子の面倒をみる事もあったが、可愛いとは思わなかった。

小さなカカシは、自分になんと多くのものをもたらしてくれるのだろう。


カカシは自分にとって希望の光、いや、もっと大切なもの。
言葉では表現出来ない大事なもの。



カカシが忍になったら、一緒に任務に行けたらいいな。
そしたら、どんなに酷い内容でも、それに圧されることなく、遂行出来る気がする。
それ程までに、自分を支えてくれる気がするのだ。





金色の少年は銀色の幼子を抱きかかえ、そう遠くない未来を夢みるのであった。







end.
07.05.20




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