あさき夢みし 3
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カカシは苦悶の表情を浮かべ、手を青年の手に添えるが、己の首から剥がそうとはしなかった。


カカシの口が小さく動いた。だがそれは声にはならず、口だけが動いたのだった。

カカシの手がだらんと垂れ、全身の力が抜ける。カカシの呼吸は止まった。
今やカカシを支えているのは、首を絞める青年の手のみ。
それも外されると、ドサッとカカシの体は床に落ちた。青年はそれを恍惚とした表情で見ていた。

その時、突風でも吹いたのか、窓がガタガタと鳴り、はっと我に返った。
床に転がるカカシを見て愕然とする。


ああ、オレは何てことをしてしまったんだ。殺すつもりじゃなかったのに…ただ話しをして自分の気持ちを知りたくて…。

カカシの前に膝をつき、ぺちぺちと頬を叩く。



「カカシ…カカシ!」


けれど、カカシの呼吸はそれで戻る筈もなく…。
カカシを仰向けにし、蘇生術を施す。
戻ってきてくれと祈りながら…。
程なくして、ヒクッとカカシの体が動き、呼吸が戻った。


「ぅ…ゴホッゲホッゲホッ…」


「カカシ…ゆっくり息吸って…ゆっくり…」


体を丸め苦しそうに咳き込むカカシの背を摩ってやりながら言う。


カカシの呼吸が落ち着いてから抱き上げ、ベッドへ寝かせてやる。


「ごめんね、カカシ。今、忍医呼んでくるから待ってて」


優しく頭を撫でてから出て行こうとするのを、カカシが引き留めた。


「待って、行かないでセンセ…。センセがオレのこと嫌いなのは判ってるけど…あと5分…5分でいいから…傍にいて…お願い…」


青年の服の裾を掴み、目にいっぱいの涙を溜めて、掠れる声を必死に出して言った。
青年は目を見瞠る。滅多に言わないカカシの我儘。こんな時は我儘とは言わないのだろうが。だが…


「…カカシ…オレはお前を一旦は殺した男だよ?」


カカシはふるふると首を振る。言葉にすると泣いてしまいそうだったから。


「オレが…恐くない?」


コクンと頷く。


「…傍に…いて…」


やっとのことで声を出し、青年の服を握りしめる。青年はベッドに腰掛け、カカシを胸に抱き締めた。


「横にならなくて大丈夫?」


コクンとひとつ。


「気持ち悪いとか、頭がふらふらするとかない?」


またひとつ頷いてから答える。


「…大丈夫…」


二人は暫く黙ったままでいたが、青年がカカシを抱き締め直し、話し始めた。


「カカシ…ごめんね。首絞めちゃって…」

「…平気」



「殺しに来たんじゃなくて、話をしに来たのに……何で抵抗しなかったの?」

「……………」


あなたが好きだからと答えて、これ以上嫌われたくないと思った。だから、答えられない。
ややあって、青年が口を開こうとした時、それを遮るようにカカシが答えた。


「…センセが…オレを嫌ってるの…知ってる…から…」
「え?」


心底驚いた。


「オレがカカシを嫌ってる? 何で?」


カカシはやんわりと青年を押し返し、俯いたまま言った。


「…夜営の時、一瞬だったけど…センセの殺気を感じたし……。見張りの時…目を逸らしたし……」

「…あれは…」


ああ、そうか、それでかと一人納得がいった。
この間、好きだと告白してきたカカシ。オレはカカシの師で親代わりで、そして同じ男で…告白するには勇気がいったろう。
それなのに、オレは応えてやる処か逃げてしまった。


「ごめん、カカシ。嫌ってるんじゃない。ただ、どうしていいか分からなかったんだ…。だって、お前はまだ子供で…倫理的にも問題あるし…まだオレのものにしちゃいけないと思ったんだ…」


説明を始めた青年を不安そうに見つめるカカシ。

「あの殺気はカカシに向けたんじゃなくて、カカシの先にいる、伽を命じた奴に向けたものなんだ…。ごめん。カカシが間違えちゃうの無理ないよね…。それに…カカシがオレ以外の奴に抱かれたのかと思うと…オレが大切にしてきたカカシに…触れるのが許せなかったんだ…。カカシは当たり前みたいな感じに話すし…」

「ごめんなさい…」

「いいんだ…カカシは悪くない…。オレ…ずっと考えてて…今さっき分かったんだ。カカシが好きだって。この世の誰よりも…」


その告白にカカシはみるみる涙を溜めていく。


「辛い思いさせてごめん。でも誰よりもカカシが好きだよ」


とうとう涙が溢れてしまった。


「…セ…ンセ…オレ…」


涙で詰まって言葉が出てこない。けれど青年には通じたようだ。
そっと頬に手を添えられ、優しく唇が重ねられた。



待ち望んでいたひと時、夢にまでみたキス。
叶えられることのない、叶うことのない想いと諦めていた。

それが今──、

キスと共にもたらされた。

まるで、夢ではないかと疑ってしまう程に…。


「夢じゃ…ないよね…センセ…ホントに…夢なんかじゃないよね…?」


確認してしまうのは、曾てそんな夢を見たから。そして目覚めては泣いていた…だから…。


「夢じゃないよ…。好きだよ、カカシ…」

「……うん…オレも…好き…センセが好き…」










今までの辛い思いが涙と共に流れていき、今は幸せの涙で頬を濡らしていた……。









end.
06.12.07




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