あさき夢みし 2
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一方、残された青年も傷ついていた。


『カカシが…オレのカカシがオレ以外の奴に抱かれている…? 何で? …だってこの間カカシ…好きだって…オレが好きだって言ったじゃないか…あんな幼いキスをしてきたじゃないか…あれは…違うのか…?』


千々として思考が乱れる。どれ程考えても、答えは出なかった。





暫くしてカカシが見廻りから戻って来た。だが、どちらも目を合わせることも、口をきくことも…なかった。



そうして気まずい雰囲気の中、見張りを続けていると一人の男がやって来た。


「カカシ君、交替するよ」
「え?もう時間ですか?」
「いや、だけど君はまだ子供だから…。明日は、我々の隊は殿(しんがり)だからね。ゆっくり…も休めないだろうが、休んで、力を残しといてくれ」


自分のテントで休むように言い、カカシを帰した。


カカシを見送った後、そこで初めて気が付いたのか、金髪の青年に話しかける。


「次期火影ともあろう貴方が見張りに?」
「まだ、火影ではありませんよ。皆と一緒ですよ」


穏やかに話してはいるものの、青年の心の中は穏やかとはいかなかった。
何せ相手は、カカシが入って行ったテントから出て来た男なのだから。


「…カカシと一緒にテントにいたようですが…?」


こんな事を聞いたら、自分をもっと苦しめることになるかもしれないと思いつつ、聞かずにはいられなかった。


「…いやぁ、お恥ずかしい。戦場での興奮が収まりませんで…。それで予てから気になってたカカシ君に思いきって、伽を頼んだんですよ…」


少し顔を赤くしながら話す男。歳は自分とそう変わらないように見える。

カカシはこいつと寝たのかと思うと、腹の中で黒いものが渦を巻く。


「そうですか…カカシに粗相はありませんでしたか?」
「…あ…いや…そういえば貴方はカカシ君の師でしたね。すみません、師の前でこんな事…」


そこで言葉を切り、何か迷ったような感じだったが、思いきってという感じで話しだした。


「…元師の貴方にこんな事言うのは失礼かもしれませんが…。貴方には理解出来ないかもしれませんが、実は私はカカシ君が好きでして…男として女性を好きになるように、です。…それでカカシ君を抱こうとしたのですが…」

「"したのですが"という事は…抱かなかったのですか? 伽として呼んだのに?」
「はあ…まあ…。最初は抱く気満々だったんですがね。目に涙を溜めて唇を噛み締めて、体を固くされてたら…可哀想で…萎えちゃって…」

「目に…涙ですか?」

「ええ、だからそんなに嫌なのかと思って…。嫌がる相手を無理矢理抱く趣味なんてありませんし。それで色々と聞いたんですよ。そしたら、好きな人に振られたばかりだと言ってましたね。
チャンスだと思いましたよ。我ながらセコイとも思いますが…。幸い彼には性経験はないとのことでしたので…。この後、頑張れば彼と恋人同士になれるかな…なんて…」


照れっとした顔をして頭の後ろを掻いた。


何とも素直な男で羨ましいことだ。だが、良いことも聞いた。
カカシはまだ未経験ということ──。
では、さっきは何故、経験してるような口振りだったのか?
あの時、オレはカカシを抱きかけた…だから? オレが気にしなくていいように? あの子なら、そう考えてもおかしくない。



そうこう悩み考えているうちに、交替の時間が来て隊の所に戻る。
戻る途中、カカシの眠るテントの前を通った。
男の計らいでテントの中で眠ることが出来て良かったと思う。
ずっと夜露にあたっていては、忍とは言えまだ子供のカカシには酷だ。風邪もひかずに済むだろう。
この時ばかりは男に感謝した。



里に帰ってからは、火影引き継ぎの業務で忙しく、カカシに会うこともなく、またカカシの方も避けているようで、姿を見掛けることもほとんどなかった。

そのことでイライラは募っていった。
カカシが入院したとか、任務を休んだとか聞かないから、元気でやっているんだろうと思う。
だったらいいじゃないかと自分に言い聞かせてみても、イライラは消えなかった。

まだ、カカシに対して言うべき言葉も、自分の想いにすら気付けずにいる状態ではあったが、どうしようもなくカカシに会いたくて、会いに行こうと決心した。
カカシに会って話しをすれば、このイライラした気持ちもなくなるのではないかと思ったから。









カカシは今、自分の所から独立して上忍寮に住んでいる。
カカシのいる上忍寮は五階建てで、カカシはその最上階の東の端にいた。



玄関をノックしたが、中から応答はなかった。確かに中に居る気配はあるのに…。
ドアノブを回してみると鍵はかかっておらず、中に入ってみた。

カカシの部屋は中央にベッドが置いてあり、壁に作り付けの本棚、反対側に机があるだけの質素なものだった。本当に寝に帰ってくるだけといった部屋だ。
その部屋の隣にキッチンがあり、その奥にどうやら洗面所があるようだ。シャワーの音が聞こえてくる。
浴室へと続くドアを開け、そこからカカシに話しかけた。


「カカシ、話しがある」


ドアの向こうでカカシがビクッと驚いたのが分かった。


「部屋で待ってるから」


カカシからの返事はなかったが、さっさと部屋へ戻り、ベッドに腰掛けカカシが出てくるのを待つ。


シャワーからあがったカカシは、黒のタンクトップに黒のズボンという姿で、肩にタオルをかけていた。
きちんと拭いてこなかったのか、髪からはまだ水が垂れていた。


「まだ、濡れてる」


カカシからタオルを取り、ガシガシ拭いてやる。カカシはおとなしくされるがままになっている。
ふとカカシの首に目がいく。そこには幾つかの紅い痕があった。


『先日の任務の時のものか…』


髪を拭く手を止め、紅い痕をなぞると、カカシの体がピクッと揺れた。
そのまま首を摩りながら、もう片方の手も添える。暫く両手で摩っていたが、少しずつ力を入れ始めた。
それに気付き、カカシは青年を見つめた。青年は無表情でカカシを見下ろしている。


「…センセ…そんなに…オレが嫌い…?」


苦しくなってくる息の中、自分を絞め殺そうとしている男に聞く。
もしそうなら、何と悲しく辛いことだろう。
この間の夜営地で向けられた殺気は、間違いなく自分に向けられたものだったのだ。
ずっとセンセに嫌われていたのだ。
けれど、嫌われたとはいえ、大好きなセンセの手にかかって死ぬのなら、本望というものだ。
カカシの瞳から一雫、涙が零れた。


「嫌い? 違うよ…その逆…好きだよ」


どこかうっとりと言い、更に手に力を込める。









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