約束 2
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「まあ、カカシとしてはさ、言いたくないのかもしれないけど、オレとしては非常に気になるんだよね。あの時、カカシ8歳だったでしょ? あの年頃で願い事無いなんて変でしょ? 何で書かなかったの?」


こうやってミナトが聞いてきたってことは、何が何でも聞き出す気だ。

火影就任前を思い出す。


就任3日前、お祝いであの首飾りをプレゼントした時、逆に欲しい物はないかと聞かれた。特に欲しい物は無く、ただ傍に居られればそれでいいと言ったら、手離す気はないとミナトは言った。
それこそ一番欲していたものだったから、それで満足だったのだが、ミナトはそうではなかったらしい。
散々身体を弄られ、白状するまでイカせてはくれなかった。結局カカシは欲しい物ではなく、願い事を口にしたのだった。

カカシの願い事、それは──

死ぬ時はセンセの腕の中で死にたい


初めて人を殺したのは7歳の時。
命が消えていくのが手に取るように分かる。怖かった。
一つの命が消える。それも自分の手によって。
殺らなければ殺られる。生か死か、二つに一つ。死が現実となって目の前にある。
それを経験した時の恐怖は忘れていない。
奪ってしまった命に対しての罪悪感。それがどっと襲いかかる。
その時、ミナトに助けを求めた。そこに居るはずのないミナトを探した。
けれど、探し求めるミナトはおらず、カカシはガタガタと身体が震えるのを止める事が出来ずに立ち尽くす。そんなカカシは別の上忍に連れ帰られたのだ。

以来、どんどん血に染まる自身が嫌で堪らなかった。どんなに洗っても、染み付いた穢れは落ちてはくれなかった。
そんな時目にしたミナトの笑顔。その笑顔には穢れを浄化してくれるのではないか思わせるものがあった。
その時思ったのだ。ミナトの腕の中で死んでいけたら、自分の罪は浄化されるのではないかと。それがカカシの中で秘かな願いとなったのだが、それを白状させられたのだ。
そして約束させられた。
ミナトの腕の中で死にたかったら、必ず生きて帰ってくると。



そして今、何で書かなかったか言わなかったら、あの時の二の舞だ。



「…願い事がなかった訳じゃないけど…オレはそんな事しちゃいけないって思ってたんだ」
「何で?」
「だって…」


一瞬、カカシの顔が苦しげに歪んだが、すぐにいつもの表情に戻り、それきり黙ってしまった。




父の死により傷ついた心に里人から更に抉られ、未だに引きずっているのだろう。
少しして、カカシが口を開いた。


「でも…ちょっとだけ、心の中でなら願い事してもいいかなって…。それとあの時……願い事が書けるオビト達が少し…羨ましかった…」


言い終わらないうちにミナトはカカシを抱き締めていた。
何も言わず、ただ優しく背を撫でる。カカシもそれに甘えるように、そっとミナトの背に腕を廻した。

暫くお互いを黙って抱き締めていたが、ミナトが囁くように聞いてきた。


「ね、カカシは何が幸せを感じる?」

「え?…オレは…こうしてセンセの傍に居られればそれで…」
「カカシは欲がないね。ん、わかった。傍にいるよ、ずっと。死ぬまでカカシの傍にいる。約束するよ」

「…うん…」



二人は、まるで誓いのキスのように唇を重ね合うのだった。






翌日、笹を川に流す時に見た無記名の短冊。それにはそれぞれこう記されていた。


──好きな人の傍に居られますように


──愛する人が幸せでありますように




end.
08.07.07






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