夫婦喧嘩 29
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ナルトが無理矢理テンゾウに連れ帰られた後、カカシはシンの寝床を抜け出しいつもの欄干に腰掛け、背を柱に寄り掛からせて月を見上げる。見上げるといっても、月は大分傾いてはいたが。
遠ざかる気配。欠けていく月のように、ナルトの想いも自分から離れていったのだろうとカカシは思う。
それでいい。太陽のようなナルトは、オレには眩し過ぎる。
オレには闇が似合う。
ミナトといいナルトといい、太陽のような笑顔の持ち主に惚れてきたんだな…。
やはりオレは闇なのだろう。光に焦がれる闇。
闇の中から、ナルトを守っていけばいい。闇の中からナルトを見つめ……。
いつまでそれが出来るか分からないけれど。
胸が小さく痛むのは無視をして。
カカシは小さくため息をつくとゆっくりと立ち上がる。そして、ナルトが去って行った方に暫し目を向け、部屋へと戻った。




それから暫くしてカカシは身体の不調に気がついた。
チャクラも減ってきているし、この変化も身体に無理をきたしている訳だから、不調になってもおかしくはない。少し身体の節々が痛むが大した痛みではない。
が、それだけではない。何となく息苦しい…。
……盛られているな。
大した量ではない。
オレは何か失敗したのか? 忍だとバレたのだろうか?
いつ?
この屋敷を全て見て回っても、自分以外忍の気配は無い。あの宴の夜ですら木の葉の忍以外の気配は感じられなかった。自分が衰えたのだろうか。
それとも……。
この舘の誰かが薬を盛っている?
きっと今まで殺された小姓達もまた、同じように薬を盛られ殺られたのだろう。そして今度は自分。
何の為に?
小姓として普通に振る舞っていたと思ったが、殺されるような言動でも取ってしまったか?
新参者の自分はシンに付いて行く事はない。もっぱら屋敷で仕事をしている。
シンの護衛も任務に入っているが、屋敷内だけで良いという。出勤する時はボディーガードを付けているからと──。
屋敷内もほとんど家令が取り仕切っているから、さほどカカシの仕事が多い訳ではない。本当にシンの身の回りの世話だけだ。
となると、屋敷内で何か失敗をしてしまったのだろう。何をしてしまったのか。
カカシは此処に来てからの己の行動を振り返ってみる。
特に怪しい行動はしていない…と思う。まあ、書斎に入った時、本に夢中になって探しに来た家人に呆れ返られた事は度々あったが。それ以外特に思い当たる節はなく、カカシはもう暫く様子を見る事にした。そうすれば、誰が毒を盛っているのか判るかもしれない。
毒を盛られ、体調不良のカカシの食欲が落ちる。それにいち早く気づいたのは家人達だった。過去にやはりこうして体調不良から始まり死んでいった小姓達が居たのだから。
真っ先に料理長がやって来て、大丈夫かと聞いてくる。


「大丈夫だけど?」


何を聞いてくるのだろうと不思議に思う。


「食欲がないようですが、どこか具合悪いのでしょうか?」


ここの家人達は何故かカカシに敬語を使う。普通でいいと言っても、そういう訳にはいかないと断ってくる。家人達の間では、もしかしたらシアンはシンの息子ではないかという噂が広がっていた。


「具合悪いってより、痛い?」
「痛い?」
「うん。特に足かな。こうミシミシと圧力掛けられてるみたいな…」
「成長痛ですかね?」
「?」


分からず小首を傾げて料理長を見れば、料理長は苦笑しながら教えてくれた。


「成長期にみられる現象です。急激な成長に体がついていけなくて痛みがでるのでございます」
「ふ〜ん…」


自分の成長はとうの昔に終わっている。今は術で身体も年齢も若くなっているだけだ。その歪みが出ているのだろう。


「ま、痛くても食事だけはきちんと食べてくださいまし。でないと大きくなれませんよ」


そう言い残し、安心したように去って行った。
大きくなれないって…、オレは既に180ある男なんですけどね。
まあ、シアンの正体を知らない家人にとっては、シアンは成長期の子どもなのだろう。仕方ないかと苦笑した。

それから帰って来たシンから本家に連れて行くと言われた。
本家──。
かつてシンが暮らしていた屋敷。今は長男のキハダが主として暮らしている。
そこに連れて行くという。どういう風の吹き回しだ?
まあ、シンの事を調べるにはちょうどいいか。
毒の出所が判るかもしれない。
本家に着いてみれば、今まで暮らしていた屋敷の倍はありそうな大きな屋敷だった。
でかい割りに忍び込むには簡単な屋敷だな。警備の者も少ないし、監視カメラの数も少ない。
一般人を装っているから、それらしく振る舞いながら辺りを伺う。特に怪しげな気配は感じられない。
キョロキョロと辺りを見回していると、シンがクスクス笑ってきた。訝しげにシンを見ると、「迷子になるなよ?」と言ってくる。


「そなたは方向音痴らしいからな」
「そんな事…」
「あるだろう? ハナから聞いているぞ」


カカシは少し頬を赤くさせ、不貞腐れた体を装う。
迷子になったフリで屋敷を調べていたんだからそう思われても仕方ないけど、なんか複雑。
この屋敷でも迷子にならなきゃいけないから。
はぁと大げさなため息をついた所でこの屋敷の現主、キハダが迎えに出た。


「お帰りなさい、父上。ああ、シアンも一緒でしたか」
「暫く世話になる」
「…シアンの部屋は以前の小姓達の部屋でよろしいですか?」
「いや。隣にしてくれ」


そうシンが答えると、キハダは少し驚いた顔をしたが、直ぐに笑みを浮かべ「すぐ用意します」と応え、二人を屋敷へと迎え入れた。








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