夫婦喧嘩 27
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「あれだけの視線を?」
「だって、一人じゃなくてたくさんの人に見られてたし…」


それもそうかとシンは笑った。


「それで? どうだ?」
「どう、って…?」
「あの若者をどう思った? 彼はそなたの傍近くに来ていただろう?」
「…別に…」


カカシの答えは素っ気なかった。まさか正直に話しかけられたくなかった等と言える訳もない。


「そういえば、可愛い女の子に治療を受けていた時だったな。あちらがいいか?」
「は?」


ナルトの次はサクラときた。一体シンはどうしたのだろう。
カカシが首を傾げてシンを見れば、彼は苦笑を浮かべ言った。


「そなたは若い。私のような年寄りではなく、元気な若者の方がいいのではないか?」
「そんな事…。それにシンだって、年寄りじゃないでしょ?」
「そんな事はない。あの若者達に比べたら、私など見劣りするだろう?」
「…何でそんな事言うのさ。あなたは見劣りなんかしないよ?」
「そう言ってもらえるのは嬉しいがね、そなたの心は私にはない。そうだろう?」


図星を差され、絶句する。確かに自分の心はミナトのものだ。それと今はナルトもいる。その二人に想いを馳せていたのがバレていたという事か。
自分はそんなにも解りやすい人間だったのかと、些か自己嫌悪にも陥る。


「…何で……」
「そなたを見ていれば分かる。そなたはここに来る前、あのような若者に抱かれていたのではないか?」


なかなか鋭いなと思う。人を見る目がなければ政治家は務まらぬか。


「……そうだけど…でも…」


カカシは項垂れた。そして力のない声でぽつりと呟く。


「…捨てられたんだ…」
「え?」
「別の男に抱かれたんだろうって疑われて…」
「疑われるような事をしたのか?」
「してない! …してないよ…。オレは、あいつだけだった…。でも、あいつは…オレに飽きたのかもしれない…だから……」


キュッと唇を噛む。
だから、この任務。
お前の事なんかもう何とも思っていないぞ、そう意思表示したのだろうと思う。
きゅうと胸が冷たく痛む。ツキリと喉の奥が詰まり嗚咽が漏れそうになる。
左目からポロリと涙が零れた。
オビトのバカヤロウ。なんで泣くんだよ…。
カカシはゴシゴシと涙を拭う。
シンはカカシを慰めるように抱きしめた。


「そういえば、そなたはここに来た日も泣いていたな」
「泣いてない」
「そう。返事もそうだった」


クスクスと小さな笑いが漏れる。


「辛いなら泣けばいい。さすれば少しは楽になろう」


シンの温かい優しい手が背中を擦る。
その温かさに誘われるように、ぽつりぽつりカカシは話始めた。


「……オレはあいつに愛されて幸せだった。…それだけで十分だった。でも…あいつはオレを疑った。オレは他の男にも脚を開く奴だと思われていたんだ……。信じてもらえない事が…こんなにも苦しいだなんて、知らなかった…」


カカシの手がきゅっとシンのシャツを掴む。その姿はまるで何かに怯える子どものようであった。


「オレは……そんなに器用じゃないから…。一度に愛するなんて…出来ないよ…」


シンの肩に顔を埋め、静かに涙を流す。その身を震わせることなく。
シンは赤子をあやすようにカカシの背中をポンポンとたたく。
暫くしてカカシがシンの身体をそっと押し戻す。


「…もう大丈夫…」
「大丈夫という顔ではないな」


にっこりとシンが言う。カカシも泣きそうな顔で微笑む。


「大丈夫だよ。元々付き合い出した時も、別れる事は覚悟してたから。それがあいつの為だし…。オレなんか忘れて、幸せな…家庭を……」


声が震えてくる。この声は隣室にいるナルトに届いているだろうか。
届いている事を願いながら、そっと瞳を閉じた。



そう──
オレなんか忘れて…。
忘れてくれていい。
忘れてくれ…。
オレはお前に愛されて十分幸せだったから。
だから、もう いい…。
十分だ…。
お前がオレを忘れても、オレはお前を愛しているよ…。










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