夫婦喧嘩 2627p/30P
ナルトはベッドに横になり天井を見上げる。
けれどナルトの目に映るのは綺麗な木目の天井ではなく、少年になったカカシの姿だった。
カカシ先生、オレの事見ようともしなかったってばよ…。
怪我の治療の後、逃げるようにあの場から去ったカカシ。後をつけていることなどとっくに分かっているだろうに、振り向きもしない。
それほどオレを見るのが嫌なんだろうか…。
先生、早く戻って来てくれ。
ナルトはじりじりしながらカカシが戻って来るのを待っていた。
暫くして、この部屋に近づく気配二つ。
一つはこの屋敷の主、シンのもの。もう一つは──
かなり気配の薄い、カカシのもの。
ああ、ようやく…。ようやく会える。
そう思ったのに、一つはこの部屋の少し手前で止まり、もう一つは通り過ぎて行った。そして二人は隣の部屋へと入って行く。
何でだってば? ここはカカシ先生の部屋じゃなかったってば?
疑問に思いつつ、意識を集中し隣室の気配を探る。
一方、隣の部屋では──。
「ご苦労だったな。良かったぞ、そなたの演奏」
「…どうも…」
少し迷惑そうな顔で応えるカカシ。が、頬が少し赤い。恥ずかしがっているのがシンには見てとれた。
クスクスと笑いながらカカシの髪をクシャッと撫でる。柔らかい手触りを楽しんでいると、もうやめてよとカカシが頭を振った。
「そう照れずとも良い」
「照れてない」
「そうか?」
笑いながらカカシの手を引き抱き寄せた。そのまま唇が降りてくる。
「疲れてないの?」
「年寄り扱いするな」
「そういう訳じゃ…」
だって、隣にナルトがいる…。オレが別の男に抱かれて喘いでいるのを聞かれてしまう…!
カカシは身動ぎする。そんなカカシを訝しげに見つめるシン。
「どうした? 私に抱かれるのは嫌になったか?」
「…そうじゃない……。ねぇ、お月見しない? 二人で」
「…ああ、今日はゆっくり見る事は出来なかったか…。そうだな、二人で見るとしようか」
演奏したり襲われたりと何かと忙しく、月見どころではなかったかと、シンはにっこり微笑むとカカシを連れていつもの欄干の所へと来た。
そこはカカシに与えられた部屋の前。ナルトの気配がヒクリと揺れたのが分かった。
頼むから出て来ないでくれと祈りながら月を見上げれば、澄んだ空気の中を照らす月の明かりに、心の中まで見透かされそうで少し震えた。
「寒いか?」
僅かな震えに気付き、シンはカカシを後ろから抱き締めた。暖かな人の温もりに、ミナトからもよくこうして抱きしめられたなと思い出す。
ナルトは……
ナルトはもっと熱かった…。
熱くて…
そこまで考えてふるふると首を振る。
考えるな。
もう…終わったんだ…。
月明かりの下、シンに抱きしめられて温かい筈なのに、心の寒さに身が震える。すがり付くようにその身に廻されたシンの腕にしがみつく。
「…部屋に戻るか?」
カカシはいいと首を振る。
「もう少し、このまま…」
自分達がこうして寄り添っているのを感じ取って、ナルトは帰ってくれないだろうかと願う。
けれどナルトは動く気配を見せず、じっと二人を窺っていた。
ナルトは、そんなにオレが他の男と抱き合っているのを確認したいのだろうか…。
オレは誰とでも寝られるのだと…それをはっきりその目で見て、それを証拠にと別れを告げるつもりなのか? そんな事をしなくても、ナルトが望むなら…オレは…。
「シアン、部屋へ戻るぞ」
自分の想いに捕らわれていたカカシは、シンの言葉にハッと顔を上げる。月を見たいと言いながら、月など見もせず俯いていた。
それをシンはどう思ったろう。シンを見上げれば、シンは優しく微笑んでいた。
シンはカカシの髪に口づけを落とすと、部屋へ連れ戻った。
部屋に戻れば、すぐに濃厚な口づけが降ってくる。
その続きを考えれば、自ずと身体に力が入る。
ナルトに抱かれ、痴態を曝すのならまだしも、他の男に抱かれてそれをナルトに見られるのはとてつもなく苦痛に感じた。
「どうした? いつものそなたらしくないな」
「…………………」
「誰が気になる者でも出来たか?」
「え…?」
カカシの驚きにシンは苦笑を漏らすと、カカシの頬を撫でながら言った。
「今宵の宴で気になる者がいたかと聞いている。そう、例えば──木の葉の里長とか」
カカシの目が大きく見開かれる。
自分はそんなにも態度で示していたのだろうか。出来るだけ見ないように気をつけていたというのに。
「彼は中々に美丈夫だ。若いそなたが惹かれても無理はない」
「…よく見てなかったから…」
答えるカカシの声は掠れていた。いきなりナルトを指摘され、自分が木の葉の忍者だとバレてしまったのかと思った。
何とか誤魔化さなければと思考を巡らす。
「いや…、そなたではなく、木の葉の里長が、かな。そなたの事を熱心に見ていた」
それは感じていた。自分を見るナルトの視線は、何か言いたげだった。
だが、自分は素知らぬふりをした。ここにいるのは“カカシ”ではなく、“シアン”なのだ。
カカシは演奏に気を取られるふりをして、ナルトに声を掛けられぬよう気を張っていたのだ。
「…気づかなかった…」
カカシは項垂れて、そう答えた。
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