夫婦喧嘩 25
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「カカシ先生、本当に身体の調子はいいですか?」
「うん、だいじょーぶ」


ひそひそと声を潜めて話すサクラに、にっこりと笑って答えるカカシ。そんな普段とは違う素顔のカカシに頬を染め、本当に?と尚も疑うサクラ。


「…随分疑り深いね…」
「ええ、相手がカカシ先生ですから」
「それはないでしょーよ」


ハァ…と大きなため息を溢すカカシ。そんなカカシを見て、いつもの先生だと安堵するサクラ。
そんな和やかな二人を睨み付けるように見つめる一対の目。
先ほど近寄って来たナルトが1m程手前で足を止め、二人をじっと見ていた。
治療の為はだけた襟元。白い肌に流れ落ちる紅い血。『あか』という色は、カカシに良く似合う。
サクラの手が翳され治療が施されていく。そしてにこやかに会話するのを羨ましく感じていた。
仲良さそうな二人が羨ましかった。なんの拘りもなく話せるサクラが羨ましい。自分も駆け寄って話しかけたいのに、何かがそれを思い止まらせた。
カカシはサクラや他の者達とは話はするのに、自分とは目も会わせない。
そうだ。カカシ先生はオレを見ようとしない。むしろ避けてるってばよ…。
それに気づいたら近寄れなくなっていた。
ただ、手当てされるカカシを見ていた。
カカシはナルトが近寄らない事に少しの寂しさと安堵を感じていた。
ナルトに話し掛けられたら、なんて答えればいい?
サクラのように、気軽に会話なんて出来そうにない。
目を合わせたらどんな顔をすればいいんだ…。こうして眺めているだけなのは、やっぱり別れるつもりでいるから?
まだオレを疑っているのだろうか? そうだろうな。疑いどころか、今は本当に別の男に抱かれているんだからな…。
そんな事を考えていたら、ナルトが一歩踏み出した。僅かに緊張するカカシ。それが伝わったのだろう、サクラが苦笑した。


「大丈夫ですよ、あれは怖くありませんから。バカなだけです」
「サクラちゃん、そりゃないってばよ…」


周りがどっと笑いに包まれた。これでナルトも先生も少しは話しやすくなるだろうとサクラは思ったのだが…。


「大丈夫か、シアン?」
「うん、へーき」


笑いを収めたシンが、ナルトが声を発する前にカカシに話し掛けてきた。


「シン様は怪我はない?」
「そなたが守ってくれたからな」


ニヤリと笑ってキハダに向き直る。


「何故こんな事を?」
「すみません、父上。小姓として付いているシアンが、本当に小姓に相応しいか知りたかったので」
「だからって、何も宴の時でなくてもよかろう」
「ええ、そうなんですがね、こういう席の方が実力がはっきりしますし…。まあ、余興の一つという事で」


キハダは苦笑いを浮かべていたが、カカシに向くと真剣な表情になって言った。


「試して悪かったな。だが、そなたも悪いのだぞ? 剣の稽古を真面目にやらないと聞いていたから、心配になったのだ。師範を倒したとはいえ、強い奴はまだまだたくさんいる。だからもっと真面目に稽古するんだぞ」
「や…だって、疲れるし…」


それを聞いて、そうだろうなとナルトとサクラは思う。いくら剣が使えても、一般人相手では力加減が難しいに違いない。カカシ先生も苦労してるんだな、と二人とも苦笑する。


「疲れるからじゃない。今回は倒せたかもしれないが、次も上手くいくとは限らないのだぞ? きちんと稽古をして、いざというときに備えろ。いいな?」
「…はい…」


しぶしぶといった感じでカカシが返事をする。少年の頃はこんな感じだったのだろうかと、ナルトとサクラは思った。こんな美少年だったのならば、さぞかしもてたことだろう。
チクリとナルトの胸が痛む。目の前にいるのはカカシなのに、ナルトの知らないカカシがそこにいた。
先程の一件は余興という事で、宴は続けられた。カカシは怪我もあり、早々に引き上げてしまった。
ナルトはこっそり影分身をつくり、カカシを追う。


「シアン」


カカシが部屋に入る前に呼び止める声。カカシが振り替えれば、そこにはキハダの姿があった。


「何?」
「先程伝え忘れた事があってな」


一旦そこで話を区切り、にこやかな顔を一転、真剣な顔になる。


「私の黒い噂くらい知っているな? あれはなまじ嘘ではないぞ? 私はああして父上を、この大名家を守って来たのだ。いいか、これだけは覚えておけ。父上にもしもの事があったら、私はお前を許さない」


暗にお前を殺すくらい出来るぞと匂わせて。
カカシは頷いた。
ここにいる間はちゃんとシンの事は守るつもりでいるのだから。
それに…
シンはセンセに似てる…。
カカシの胸に一瞬よぎるミナトの面影。それを飲み込んで、キハダに微笑む。


「うん、シン様はオレが守るよ」


微笑むカカシの肩をポンと叩き、キハダは宴に戻っていった。それと入れ違いに料理長がやって来た。


「お腹お空きになったでしょう? 軽く食べられる物用意しましたからどうぞ」
「いや…そんなには…」
「何を言ってるんです? ほとんど口にされてないでしょう? それに食べて頂かないともったいないですから」


そう言って料理長はカカシを連れて行ってしまった。
ナルトは付いて行こうかと思ったが、カカシが入ろうとしていた部屋で待っていることにした。
きっとこの部屋はカカシ先生の部屋だってばよ。ここで待っていれば、先生と話が出来る。
謝るんだ、先生に。
そう思いベッドに腰掛け、カカシが戻って来るのを待った。









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