夫婦喧嘩 22
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カカシへの任務が間違っていたと発覚したその夜、ナルトはカカシの部屋を訪れた。
相変わらずの殺風景な部屋。
埃避けにカバーの掛けられたベッドに腰掛けてカカシを想う。
依頼書を見た時の驚いた顔。次いで現れた無表情…。一体どんな想いをその胸に抱いたのか…。
自分はニコニコと…いや、ニヤニヤと言った方が正しいだろう。笑いながらカカシを見ていたのだ。
その自分を見て、カカシはどう思ったことだろう。最低な奴とでも思っただろうか。
もし、自分とカカシが逆の立場だったら、その場で問い質していただろう。
カカシは何も言わず任務を受けた。
何故、何も言ってくれなかったのか。何故、任務を受けたのか。
いや、カカシに拒否など出来よう筈もなかったのだ。自分は問答無用とばかりに笑っていたし、カカシにしてみれば火影からの任務は一介の忍として断る事は出来ないだろう。
カカシはそう教育されている。
はあ…とため息が漏れる。出来ることなら、時間を巻き戻したい。あの任務書を渡す前まで。出来るなら、九尾と入れ替わった時まで遡りたい。
そうしてやり直したい。
会いたい。
会って抱き締めたい。
そして謝って、許してくれるなら口づけたい。
それも今では夢になってしまったのだろうか…。
ナルトはもう何度目になるのか、ため息をつく。
出るのはため息ばかり。こうしてうじうじするのは自分らしくない。そう思う。
カカシに会って、任務は間違って渡ってしまったのだと事情を話せば分かってくれるだろうか。本当は仲直りしたかったのだと、許してくれるだろうか。
笑って……くれるだろうか?
眉をへにょりと曲げて、優しく弧をかいて……。
カカシを傷つけたのは本意ではなかったのだと…。
カカシの思考はいつもネガティブだ。今回もきっと悪い方へ、別れるとか考えてそうだ。
カカシを疑った挙句の伽付き任務だ。絶対悪い方向へ考えてるだろう。
確信に近い思い。
今ここで訂正出来ないことに地団駄を踏む。


「カカシ先生ぇ…会いたいってばよ…」


ゴロンとベッドに横になる。そうしてもカカシの匂いはおろか、温もりさえ感じられない。あるのはベッドカバーの冷たい感触のみ。
ナルトは少しでもカカシを感じたいとカバーを捲り、枕に顔を伏せる。ほんの僅かなカカシの匂い。ようやくカカシの痕跡を見つけた気がして、ナルトは枕を抱き締めた。
と、手に触れた冷たい金属の感触。
何だ?
枕を避けてみれば、そこにはカカシのドッグタグとそれにつけられた指輪。
ナルトが贈ったもの。
いつもカカシが身につけていたもの。
それを見てナルトは大きくショックを受けた。
まるでカカシから別れを告げられた気分だった。


「カカシ先生…何でだってばよ…何で…」


それはカカシの決意の表れなのだろう。ナルトと別れる事への…。
ナルト以外の男とセックスする任務だ。こんな物を身に付けていては任務にならないのはよく解る。
だが…。
首に下げていなくても、持っていて欲しかった。自分との繋がりを断たないで欲しかった。
ナルトは二人の隔たりをひしひしと感じた。
これは何とかしないと、マジでやばいってばよ…。
ナルトはカカシのドッグタグと指輪を持ち、部屋を飛び出した。
向かうは大名屋敷。
カカシの居る所。

先生、誤解だってばよ!誤解なんだってばよー!

ナルトは心の中で叫びながら走っていく。
途中から追いかけて来る気配があったが、ナルトは無視した。
暗部の護衛共よりカカシ先生だ!
そう思いながら走っていれば、道を塞がれた。


「お待ちください、六代目」
「何なんだってばよ。オレは急いでるんだってばよ」
「急いで何処行くって?」
「シカマル!」
「カカシ先生の家ならともかく、火影が里を抜け出して何処に行くんだよ」


やってらんねぇぜという態度をありありにしてシカマルが咎める。


「邪魔するなってばよ、シカマル。オレはカカシ先生に…「会いに行くってか?」


ナルトの言葉を遮ってシカマルが言う。


「そしてカカシ先生の任務の邪魔をするつもりか?」
「ンな事する訳ねぇってばよ! オレはただカカシ先生に会いたいだけだってば」
「それがカカシ先生の任務失敗に繋がるってんだ」
「何でだってばよ…」


はぁとこれ見よがしにでっかいため息をシカマルはついた。


「ったく…。いいか、よく考えてみろ。お前がカカシ先生に会いに行って、万が一それを目撃されてみろ。暗殺者にバレて任務失敗。依頼者、保護対象者からは不信を抱かれる。なんて事になったら、お前どうするんだ?」
「どうって…」
「はぁ…ここまで言って分かんねぇのかよ…。任務失敗はカカシ先生だけじゃなく、里の信頼の失墜にも繋がるんだ」
「そんな…」
「オーバーじゃねぇ。お前はもう下忍じゃねぇ、火影なんだ。お前の肩には里の命運が掛かってるんだ。あの頃みたいな軽率な行動は取るんじゃねぇよ」







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