夫婦喧嘩 21
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あれ以来、カカシは些かの身体のだるさを感じていた。ナルトの事を考え、眠れないというのもあるのだろうと思っていた。
木の葉には護衛だけでなく、火影も宴に招待したというのだ。

ナルトが来る。

嫌だ…。
この姿を見られたくない。
ナルトが自ら渡した任務だから、ナルトはどんな内容か判っている筈だ。だが、他の男に抱かれているこの身を晒したくはない。
この屋敷で顔を会わせても知らん顔してくれるだろうか。
頼むからして欲しい。
カカシは心からそう願った。
ナルトと顔を合わせる事を思うと憂鬱になる。その気分のままシンの部屋に向かった。
部屋ではシンが具合悪そうにイスにぐったりと腰掛けていた。顔色も悪い。


「どうしたの? 具合悪い?」


カカシが話し掛ければ、だるそうに顔を上げ、力なく大丈夫だと答えた。


「大丈夫じゃないでしょ。顔色すっごく悪いよ? 今、お医者呼んでくるから」
「待て…本当に大丈夫だから…」


医者を呼びに行こうとするカカシの手を取り引き留める。その声は些か掠れ、覇気がなかった。


「…こんな姿、見られたくなかったんだがな…」
「いつから?」
「そうだな…いつからかな? ずいぶん経つ気がするし、そうでもない気もするな…」


カカシは訝しげにシンを見る。と、近くのテーブルに小瓶があるのに気がついた。この間見た小瓶。切子模様の付いた瀟洒な物。
カカシはそれに手を延ばした。途端、「触るな!」と物凄い大声で怒鳴られた。手を延ばした格好のまま目を丸くしていると、シンはきまり悪気に言った。


「すまぬ。それには触らないでくれ…」
「ごめん…大切な物なんだ?」
「いや…大切な物では…薬なのだよ…。ただ、それは誰にも触られたくない」
「…分かった」


薬?
カカシは小瓶を視界の隅に入れながら、どこが悪いのだろうと思った。ハナ達からは、身体が悪いとか弱いとか聞いた事がない。なのに、今は本当に具合が悪そうだ。
触られたくない薬──。
まさか……
毒薬?
徐々に体調を崩し、死んでいった小姓達。
可能性は無くはない。
シンは、もしかしたら毒慣らしをしているのかもしれない。
かつて毒慣らしをしていた頃を思い出す。あれは辛かった。息苦しくて、身体が重くて…。毎日同じ時間に少しずつ…徐々に毒の量を増やして……。
生き残る為とはいえ、地獄のような時間だった。
それを今、シンはしている。彼もまた、命を狙われているという事。
確かに毒殺は多い。公表されない、病死として届けられたものの中にもそれはあっただろう。
それが判っているから、小姓達の死因を解明しようとしなかったのだろうか?


「とにかく、もう寝た方がいいよ」
「そうだな……そうしよう」
「おやすみ」


部屋を出て行こうとすると、手を捕まれ引き留められた。


「どこへ行く?」
「どこって…。部屋に戻るよ。具合悪いんでしょ?」
「…病気ではないから…。そうだな…、添い寝してくれぬか?」
「……いいよ…」


苦しい時、一人にしておいて欲しいと思うのと、傍に誰かいて欲しいというせめぎあいが起きる事がある。シンは誰かに傍にいて欲しい方を選んだようだ。
その思いはカカシにも記憶がある。
まだ少年の頃、やはり毒慣らしで苦しんでいた時、一人になりたかったのに、無理矢理ミナトが共に過ごしたのだ。

『センセ、一人で大丈夫だから』
『ダメ。カカシ君の大丈夫は大丈夫じゃないから』
『…信用無さすぎ…』
『そうじゃないよ。オレが傍にいてあげたいんだ。一人で苦しんで欲しくないんだよ…』

そう言って抱きしめてくれた。ミナトの優しさに心暖かくなるも、胸の中にいる落ち着きなさと安心感とでどうしていいか分からなかった。
一人になりたいのに、でも一人だと不安で…。ミナトの腕の中でその温もりと鼓動を聞いて安心して。それがまるて幼児のようで恥ずかしくもあり…。
そんな自分を思い出し、苦笑を溢してシンの隣に潜り込めば、シンはまるで抱き枕のようにカカシを抱き締めた。
セックスのない眠りは、ここに来て初めての事ではないだろうか。それはカカシにとっても久し振りの事だ。
ナルトといた時も、いつも抱かれていたのだから。
決してセックスが嫌いという訳ではない。が、カカシ自身は、こうしてただ抱き合って眠るという事の方が好きかもしれない。
シンは少し息苦しそうな呼吸をしていたが、やがてそれも落ち着き、カカシを抱き抱えたまま眠りについた。
こうしてただ抱かれて眠るのは、何時ぶりだろう?
センセは時々こうして抱いて寝てくれたな…。
人の温もりは安心を与えてくれる。
シンと会ってからミナトを思い出す事が多くなった。それはシンの醸し出す雰囲気がミナトに似ているからだろうか。
そんな事を思いながら、カカシもまた眠りへと(いざな)われていった。











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