夫婦喧嘩 20
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気がつけば、カカシはシンの腕の中で眠っていた。
この男は小姓を腕に抱いて寝るのか?
部屋に帰ろうと起き上がれば、シンがカカシの腕を掴む。


「どこへ行く」


それは咎める声だった。
部屋に戻るのに何故怒られなければいけないのだろうと疑問に思う。
首を傾げて不思議そうにシンを見るカカシ。シンはその様子に苦笑を溢し、カカシの頭に手を延ばし髪を梳くように撫でた。


「あの、部屋に戻る…」
「よい…ここに居よ」


シンはカカシの腕を引きすっぽりと胸の中に抱き込んだ。


「朝まで…私の傍に…」


カカシは返事の代わりに黙ったまま頷いた。何となく寂しげなシンが気になったのだ。それに、その雰囲気が、どことなくミナトに似ていたから…。
カカシは瞳を閉じ、今は亡き人に想いを馳せた。
ミナトも寂しそうな瞳をしてカカシを抱き締めた。そう、それは決まって明け方近く。二人の僅かな逢瀬が間もなく終わりを告げる頃。別れを惜しむように抱きしめるのだ。
カカシはシンの温もりの中、ミナトを求め眠りについた。
翌朝、シンが目覚めた気配にカカシも目が覚めた。ただ起き上がることはせず、目を瞑ったままシンの動きを探っていた。
シンは起き上がると、ベッド脇に置いてあった小瓶を棚に隠すようにしまう。何の小瓶なのか。シンが出て行った後調べよう。
そんな事を思っていると、シンが戻りベッドへ腰掛けカカシの髪を梳く。ゆっくりと目を開ければ、優しく微笑みながら唇に触れてきた。


「おはよう。起きられるなら、一緒に朝食はどうだ?」


おはようのキスも、食事への誘いも初めての事ではないだろうか。正直驚いた。
どういう心境の変化だろう。
聞かれても返事をしないカカシに、シンは困ったように笑う。


「シアンは朝が苦手か?」


カカシは素直に頷く。


「仕方ないな…。ではもう少し寝ていなさい」
「……いく…」
「うん?」
「…少しなら…」
「ムリはしないでいいぞ?」


カカシは首を振り、ゆっくりベッドから降りた。
シンはじっとカカシの裸体を眺める。
歳の割りに細い身体。カカシの食の細さを考えれば納得いく。もう少し年頃の少年らしく食べられないものか。
カカシにしてみれば、きちんと食べているつもりだから、周りから小食だと言われても困るだけなのだが。
着替えを済ませ食堂へと向かう。カカシの着ている服は全てハナが選んだものだ。ハナは実に楽しそうに選んでいたのだ。まるで自分の子どもの服を選ぶかのように。カカシの顔に布地を当て、これも似合うあれも似合うと生地選びに必死だった。
カカシはそんなハナをじっと見ていた。昔、自来也が女の買い物に口は絶対挟むなと恐ろしい形相で話していたのが忘れられなかったせいもある。ただ、自分の母が生きていたら、こんな感じだったろうか…と少し感傷的な気持ちになった事は否めない。
そんな気持ちを抱えながらシンを見れば、いつになくのんびりと過ごしている。仕事は?と聞けば、休みだという。


「たまの休みだ。シアン、お前の剣術の相手をしてやろう」
「疲れない?」
「人を年寄り扱いするな。カイよりも腕はいい」
「へぇ…」


関心した風を装って、心の中でため息をつく。実際疲れるのだ、手加減が難しくて。手加減し過ぎれば真面目にやれと怒られるし、かといって入れ過ぎれば相手に怪我をさせてしまう。一般人相手は勘弁してくれと思う。


「そう、それと来月小さな宴を開くから、そのつもりでいるように」
「宴?」
「月見の宴だな。シアンは笛ができたな?」
「まあ、ほんの少し…」
「皆の前で披露出来るよう練習しておきなさい」
「ええっ!?」


まさかこのような展開になるとは思わなかったカカシは、抗議の声をあげたがあっさり却下された。カカシは笛の練習まで余儀なくされてしまった。
そんな事をしたのは少年の頃に大名の伽兼護衛の任務をした時以来だ。あの時は伽は免れたが…。
大名自身が面白がって色々教えたのもあるが、家人達も飲み込みがいいと寄ってたかって教えたがった。つまり、カカシは弄られまくったのだ。おかげでいろんな知識が身に付いたのは有難いと思うべきなのだろう。
その日、カカシは剣術に笛にとシンに付き添われてみっちり練習させられたのだった。
当日は一人で披露するのではなく、シンの息子達、カイ達や他の使用人達と庭の一角で披露するらしい。
ぶっつけ本番かと思いきや、カイ達は暇を見つけてはカカシと練習しに屋敷を訪れて来た。
その中で長男のキハダには黒い噂が付きまとっていた。政界に身を置く者には致し方ないのもあるが、キハダにはそれ以外の噂があるのだ。人身売買やら臓器売買、麻薬取引など噂に絶えない。わざと流されているのか、事実なのかはまだ分からないが。
そんな中、宴の警備を木の葉に依頼したと聞いた。
ドキンと胸が跳ねる。
ナルトは来るのだろうか…。いや、火影が警備などする筈もない。
カカシは小さな胸の痛みに顔を上げる事が出来なかった。








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