夫婦喧嘩 19
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捻挫した痛みが引いても、カカシは湿布は外せないでいた。ハナに痛みがなくてもあとひと月はきちんと治療しないとダメだと、あの綱手ばりの三白眼で睨まれた為だ。
確かに腫れて熱まで出したのだからそれなりに完治までは時間が掛かるだろうが、ちょっと過保護じゃないか? とカカシは思う。
おまけにシンまで同じ事を言う。シンの過保護はハナの教育の賜物だなと密かに思ったのは言うまでもない。
ただ、シン達の過保護はミナトを思い出させた。ミナトも異常な程カカシに対して過保護だったから。
その過保護の中、自分はそんなに頼りないだろうか? とカカシは些か自分が情けなる。
ナルトやサクラでさえ、過保護なんじゃないの? と思う時があるのだ。自分が衰えたってことかねぇ、とナルト達の想いとは違う方向に考えがいってしまうカカシだった。
ナルト達にしてみれば、里の為、仲間の為、と簡単に自分の命を差し出してしまうカカシを失いやしないか、人に無理をするなと言いながら、自分が無茶をするカカシを心配しての事なのだが、当のカカシはそんな事をしている自覚は全くなく、彼らの想いは通じてはいなかった。
自然、周りはとやかく言うし、構い出す。と、カカシはオレってそんなに弱っちくなっかねぇ…なんて考えだす。悪循環が続いていた。
そんな訳で足は包帯をしたままカカシは屋敷のあちこちを歩き回っていた。
屋敷には外から侵入された形跡はなかった。ということは内部犯の仕業だろうか。注意は屋敷で働く者達に向かう。
カカシは厨房へ向かう。いい匂いに誘われて、と理由をつけて。


「シアン様、どうされました?」
「その『様』つけるの、やめてよ。柄じゃないでしょ」
「はは…すみません。ですがお許しください。様をつけなければ私どもが叱られてしまいます」
「そうなの?」
「はい。ですのでシアン様には慣れて頂かないと…」
「…努力するよ…。それよりいい匂いなんだけど?」
「ああ、今仕込中ですからね。摘まんでみますか?」
「いいの?」
「どうぞ」


カカシはこうして使用人達に馴染んでいった。
手本はかつての親友オビトと元(?)夫のナルト。二人の人懐っこさと、綱手から言われた『敬語は使うな』。この年齢のガキはろくすっぽ敬語を使えん、と憮然とした表情で言っていたのを思い出す。


「ねぇ、夜中なにか作りに来ていい?」
「夜中?何でまた…」
「うん、シンが「様!」
「へ?」
「シ ン 様。いくらシン様のお気に入りだからって、呼び捨てはいけません。ちゃんと『様』をつけないと」
「うん。そのシン様が夜中酒を飲むからさ。ツマミあった方がいいかなって」
「ああ、そういうことなら、私が作って差し上げますよ」
「あ、でも毎晩ってわけじゃないから…調理器具とか調味料とかの場所を教えてもらえたら…」


そう言って器具や調味料などの入っている場所を教えてもらい、中を確認していく。細かな所までは確認出来なかったが、ざっと見では怪しいものはない。
まあ、こんな誰が使うかわからないような所に置かないか…。
夜中、カカシが厨房へツマミを作りに行くと、昼間の料理長が簡単なツマミを作ってくれていた。
礼を言い、ツマミと酒を持っていつもの欄干の所に行く。
シンが月見をするかはわからない。今宵は半月にも満たないのだ。
カカシは持っていた盆を置くと欄干に手を掛け、その上に顎を乗せ月を見る。
淡い光の中、カカシはぼうっと庭を見ていた。侵入者はいない。のんびりした時間。
ここの人間は皆、主人を大事に思っている。仇なそう等と考えている者はいなかった。おいそれとはそんな感情を悟らせる事はしないだろうが。
基本、シンは慕われてはいるようだ。
そんな事を考えながら月を見上げていれば、かつてを思い出す。
ミナトともよくこうして月を見上げていた。
二人だけで過ごす僅かな時間。その小さな幸せを噛みしめていた。
ミナトはよくカカシを月に例えていた。そんな綺麗なものじゃないと否定しても、ミナトはそれを綺麗な笑顔であっさり覆す。
太陽みたいな人に言われてもな…と思いつつ、気恥ずかしさとほんの少しの喜びも感じていたのだ。
決して素直とはいえない自分は、それを口にする事はなかったが。
そんな思い出に浸っていると、シンが部屋から出てくる気配がする。
何やら部屋でやっていたようだが、仕事関係だろうと思って放っておいたが違うかもしれない。些か顔色が悪い。明日はシンの様子を見てみようと思うカカシだった。


「そなたが月見酒か?」
「うん…待ってた」
「酒の肴を用意して?」
「作ったのはオレじゃないけどね」
「では、相伴に預かろうかな」


シンはニコニコとカカシの隣に座る。
ほんとに顔色が悪いな。


「ねぇ、疲れてるんじゃないの?」
「それほどでもないが…どうかしたのか?」
「顔色が悪いからさ。具合でも悪いのかと思った」
「なんだ、心配してくれるのか?」
「別に…そんなんじゃない」
「そうか?」


シンは顔を近づけ口づける。
長い夜の始まり。カカシにとって苦痛の始まり。
カカシは心を閉じるかのように、瞳を閉じた。








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