夫婦喧嘩 17
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出るに任せていた涙も乾きかけ、うとうとしかけた時に外廊下に人の気配がした。
その気配はカカシの部屋の前で止まった。そこから動く気配はない。
ただ不穏な気配ではなく、穏やかに佇んでいる。そんな気配だった。
これは…シンだ。こんな夜中に何だろう?
カカシは起き上がると、そっと障子を開けた。
外廊下ではシンが欄干に腰掛け、月を肴に酒を飲んでいた。


「寝ないの?」


カカシが声をかけるとシンは驚いた顔をした。


「起きていたのか…」
「寝かけたんだけど、人の気配がしたから…」


カカシは小さく首を振って答えた。
この男は自分の身に無頓着なのか。こんな夜中に護衛も無しに一人でいるなんて。命を狙われていたら、こんな絶好のチャンスはないんだぞ。
カカシはため息が出そうになるのを堪える。そんなカカシを見て、シンは苦笑する。


「起こして悪かった。ただ月見酒をしていただけだ。そなたも一杯どうだ?」


カカシは怪訝な顔をしながらも頷いた。シンの命が狙われているのではなく、シンが小姓の命を奪った可能性とてあるのだ。
カカシは痛めた足を庇いつつ、シンの所へ行こうとした。
が、カカシがシンの所へ着くより早く、シンがカカシの側に来てカカシを支える。そしてカカシを欄干に寄り掛かるようにして座らせると、自分もまた寄り掛かるようにカカシの正面に座った。
シンは意外と優しいんだな。こうして何気なく手を差し伸べるところは、ちょっとセンセに似ているな…。
シンはカカシに無言で杯を手渡すと、酒を注ぐ。
カカシはくんと匂いを嗅いでから口をつけた。
特に怪しい臭いは無い。


「あ、旨い」
「ほう…そなた、いける口か?」
「あ…いや…」
「なに、構わぬさ。そなたが飲めるのであれば、酒もまた楽しかろう…」


シンはそう優しく微笑んだ。
シンは何を思って一人で酒を飲んでいたのだろう。ただ月を愛でるだけには思えない。何か心に抱えているものがあるのだろうか。
カカシは少し首を傾げてシンを見ていると、見られている事に気付いたシンがカカシを見つめ返す。


「泣いていたのか?」


シンは涙の跡を見つけたのか、カカシの目尻を拭う。

「泣いてない…」
「そうか?」


シンはからかうような口調で聞いたが、それ以上聞く事はせず、静かに酒を飲む。
涙していたのを知られてしまったのは恥ずかしいが、それ以上何も聞かれず、ほっとするカカシであった。

静かな夜だった。
月の光が二人を優しく照らし、穏やかに時が過ぎていく。
見回りの者が現れたが、シンの姿を認めるとそれ以上近よりはせず、小さく頭を下げると戻って行った。


「酒がなくなってしまったな…」


小さな呟きだった。
シンもさすがに休むだろう。そう思ったのだが、シンは何故かカカシを見つめている。
疑っているな。と思う。
まあ、当たり前か…。少年とはいえ正体の解らない男が目の前にいるのだから。


「…そなたは私の身の回りの世話をする為に入ったのだったな?」
「……うん…」
「では、今宵から世話をいたせ」
「はい?」


(え? 世話? 今夜から?えええっ? もう?)
カカシが内心焦っていると、クスクス笑いながらシンはカカシを抱き上げる。


「うわっ! ちょっ…あ、歩ける! 歩けるからっ!」
「そなたが歩くより私が抱いていった方が早い」


なんでこの屋敷の人間は姫抱っこが好きなのよ、とジタバタしてる間にカカシはシンのベッドに下ろされ、そのまま組み敷かれた。
シンの唇がカカシの唇をなぞる。目を瞑り、キュッと唇を閉ざすカカシ。


「シアン、身の回りの世話とはこういう事も含まれるのだ。そなたは私の相手をせねばならぬ。力を抜きなさい」
「何で…男だよ、オレ」
「衆道はたしなみの一つだ。驚くに値せぬ。それ以前にそなたは…」


シンはそれ以上は言葉にせず、カカシの身体の愛撫を始める。
久しぶりの人との触れ合い。それは気持ち良いとは程遠い、ぞわぞわと肌が粟立つような嫌悪する感じだった。
嫌だ、イヤだ…頼む触らないでくれ!
さわさわと肌に触れる暖かい手。ナルトの大きく節くれだった手とは違う。
伝える熱も、愛撫の仕方も違う。
違う違う違う…。
ああ…ナルト……ナルト…。
これは任務。任務なんだから。
カカシは自分に言い聞かせる。そうしないと、嫌悪でシンを投げ飛ばしてしまいそうだった。


「シアン…、そなた男は初めてか?」


シンはカカシの頬に手を滑らせて聞いてきた。カカシはふるふると振りながら、自分が震えている事に気づく。
何で…ああ…みっともない…。抱かれるのは慣れているはずじゃないか…。これじゃまるでレイプされてる女の子みたいじゃないの…。
身体を挿し貫かれる痛みに、任務だからとひたすら耐えるカカシだった。
心を伴わないこの行為がレイプと変わらないという事に気づかない、否、気づかないふりをしたまま…。









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