夫婦喧嘩 16
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カカシは翌日も、その翌日も帰っては来なかった。
ナルトの落ち込み具合は端から見てても酷い有り様だった。
サクラやシカマルから鬱陶しいと怒られようが、カカシ先生はじき帰って来るからと慰められようが、変わらずどんよりとしていた。
カカシより上の者達は、そんな所もミナト似だと笑った。懐かしいとさえ言っていた。
ミナトもカカシがいなければ、それこそ鬱陶しい以上の沈み方をしてみせたのだ。カカシが居たら居たで、カカシに構って欲しくて執務を抜け出すようなお茶目をやらかしたのだが。
そんな風景を思い出し、大人達はおおらかに笑っていた。
だが、そんな事を知らない世代は、やってらんねぇとばかりにナルトに文句をつける。


「おい、ナルト。その鬱陶しい顔何とかしろ。カカシ先生が帰って来た時もそんな顔向ける気かよ?」
「あ゛? いつ帰ってくんだよ? カカシ先生、帰って来ねぇじゃん」
「それ、ナルトのせいでしょ? おまけにあんな任務」
「あー! もう言わないでくれってばよ…。反省してるってば」

「何を反省してるって?」
「ばあちゃん…」


ナルトが鬱陶しい程落ち込んでいると聞いて、様子を見に来た綱手だった。


「お前が鬱陶しいと聞いてな」
「だって、カカシ先生帰って来ないってばよ…」
「まあ、直ぐには帰って来られないだろうねぇ」
「ンなことないってば。カカシ先生なら直ぐだってば」
「そうだな。他の奴らに行かせるよりは早いだろうな」
「他の奴らって、あれはカカシ先生用に出した任務だってば? あんなの、先生なら朝飯前だってば?」
「ナルト…あの任務でカカシが傷つくとは思わなかったのか?」
「そりゃあ、カカシ先生ちょっと驚いた顔してたけど、先生にとっちゃどうって事のない任務だろ?」
「お前、それ、本気で言ってるのか?」
「? もちろん本気だってば」


綱手の怒気が膨れ上がる。今の綱手に殴られたら、如何にナルトといえどただでは済むまい。執務室に一気に緊張が走る。


「お前という奴は…。見損なったぞ、ナルト。お前はカカシがどうなってもいいのか!?」
「どうなっても、って…?」


まるで分かっていないナルトに、綱手の青筋は大きくなるばかり。


「ナルト、お前はカカシが死んでも平気なのか?」
「カカシ先生が死ぬ? あんな任務でカカシ先生が死ぬわけないってばよ」


バキッ!
バキバキ!綱手の拳が執務机を直撃した。憐れにも机は真っ二つに割れ、上に乗っていた書類が宙を舞う。


「ば、ばあちゃん!?」
「師匠!」
「五代目!」


サクラやシカマル、その他周りにいた者達の驚き。
綱手がそこまで怒る理由が解らないからだ。


「師匠、落ち着いてください! 本当にカカシ先生が、あの任務で死ぬなんて考えられません」


サクラのセリフにギロリとサクラをも睨め付ける。
ヒッとサクラは身を竦ませた。


「お前ら、何を言っている。あの任務は自らを囮にした、命を懸けた任務だぞ?」
「「はあっ!?」」


ナルト達は呆気に取られた。
あのDランク任務のどこに命を懸ける?
囮任務?
と首を傾げる。
その様子にますます頭を痛める綱手。
こいつらは何て能天気なんだ、と…。


「あの…師匠。あのDランク任務のどこに命を…」
「Dランク? あれはりっぱにAランク任務だぞ?」
「へ?」
「いつ、誰に毒殺されるか解らない任務じゃないか。それを暢気に死なないなどと…「ちょっ、ちょっと待つってばよ! オレは毒殺されるような任務は与えてないってばよ?」


綱手は何を言ってるとばかりに、ナルトを睨み付ける。


「オレはカカシ先生にオレンジデーを調べるって任務を渡したってばよ?」
「何を言っている。カカシは大名の小姓になって護衛兼犯人探しの依頼書を持っていたぞ? 現に私は解毒剤まで持たせてやったんだからな」
「そんなバカな…」
「…お前、きちんと確認して渡したのか?」
「確認…してない…」


あの時は焦っていたし、依頼書は確かに一番上に置いたのだ。なのに、何で?
その言葉にサクラがあっと声を上げた。


「…猫! 猫よ。あの時猫が入って来たじゃない? その時書類が落ちたんだわ、きっと」
「あの時か〜…」


ナルトは頭を抱えて座り込んだ。
何で気づかなかったんだ…。カカシが帰って来ない筈だ。
自分は任務を取り違えて渡していたのだ。その任務は、誰に頼もうかかなり悩んでいた任務だった。まさか、よりによってカカシに渡ってしまうとは…。


「ばあちゃん…カカシ先生、どんな様子だった?」
「五代目と呼びな。いつもと変わらなかったぞ。表面上はな。ただ、悲しそうな目ではあったな」


うわぁ…と、ますます頭を抱えるナルト。
カカシを疑い傷つけ、あげく伽付きの囮任務。
カカシの傷を抉り、大きくしてしまった。しかも自らの手で。
既にカカシが任務に赴いてしまった今、取り消す事も出来ない。


「どうすればいいってばよ…」


『離婚』の二文字がナルトの頭を過った瞬間だった。








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