夫婦喧嘩 15
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宛がわれた部屋でベッドに腰かければ、ふぅとため息が漏れた。
潜入早々ケガするなんて情けない。転んで足を捻るなんて、忍としてあり得ないでしょーよ…。
はあ…と、もう一度ため息をつき、部屋の点検の為立ち上がる。
一通り点検するが、抜け道や隠し扉などは見当たらない。
殺された小姓達の部屋とは違うのだろうか?
ともかく、明日ハナに詳しく聞かなければ。
カカシは窓辺に寄り、障子を開ける。窓から見上げれば、満月がカカシを照らしていた。
月を見上げながらカカシはナルトの事を想う。
今頃どうしているだろう。執務は終わった頃だろうか?
食事はしたのか? またラーメンなんかで済ませていないか…。
少しはオレの事想ってくれているだろうか…。いや、別れを決めた相手の事など想う筈もないか…。
カカシはやりきれなさに三たびため息を吐く。
もう、ナルトの事は諦めろ。オレはこれからナルト以外の男に抱かれるのだから。
ナルトは……
もう考えるのはよそう。辛くなるばかりだ。
何度もそう思うのに、時間が出来れば考えてしまう。だが……。
もう別れるのだから…。それがナルトの望みなのだから…。
滲みそうになる涙をぐっと堪え、ベッドに潜り込む。すっぽりと頭まで布団を被ったのは、誰が見ているわけでもないのに流れてしまった涙を隠す為か。
喪失の痛みはどんなに慣れていても辛いのだ。
だから大切なものは作らないようにしてたのに。なのにどうしてオレはそれを作ってしまったのだろう。
ミナトの時のように死に別れたわけではない。たかが失恋じゃないか。泣く程の事じゃない。
自分の気持ちとは裏腹に、涙は次から次へと流れてきて。
今日だけ、今日だけ泣いてしまおう…。明日からは流さない。だから……。
カカシは悲しみに身を委ね、涙が出るに任せた。





一方、里ではナルトがイライラしながらカカシの帰りを待っていた。
カカシに渡した任務、オレンジデーの事ならカカシなら1時間もあれば調べがつく筈。なのに夜中になってもカカシは帰って来ない。
遅い。遅すぎるってばよ!
現物があると尚良しと書いたけど、その現物だって入手困難な事はない筈だ。
いったいカカシ先生は何処まで行っちまったんだってばよ…。
昼間はニタニタにやにやしていたのが嘘のように、今はイライラと些かの怒りを滲ませながら外を見つめる。
早く帰って来いってばよ…と想いを馳せながら。
けれどカカシの気配はどこにもない。ナルトはひたすらカカシを待っていた。


「カカシ先生ぇ…オレに会うの、そんなに嫌なのかよ…」


口に出すと更に落ち込んでしまう。
カカシが会いに来たのは任務を受ける為なのだ。その前は会うことを避けていたのだから。


「オレが悪かったって…。先生、帰って来てくれってばよ…」


ナルトは月を見上げて呟いた。
折しもカカシが見上げているのと同じ月。互いの事を想いながらも、考えている事は正反対だった。
こんなにやきもきするくらいなら、任務にかこつけて仲直りだなんて呑気な事言ってないで、土下座でもなんでもして謝って仲直りしとくんだった。
そうすれば、今頃カカシの温もりを感じていただろうに…。
今更後悔しても遅いのだが。


「後悔先に立たずだってばよ…」


先生を探しに行って、謝ったら許してくれるだろうか?
いつものように眉をへにょりと曲げて、優しい笑顔を向けてくれる?
ナルトはカカシの困ったように笑う顔を思い浮かべる。
月はあんなに明るいのに、ナルトの心には反比例するかのように暗い影を落とした。
カカシ先生が二度と会ってくれなかったらどうしよう…?

くくくっと九尾の笑い声が聞こえてきた。


カカシはお前にとうとう愛想を尽かしたのか…

そんな事ないってばよ…

どうだか。帰って来ないのだろう? お前ではなく、別の男の所に行ったのではないか?

………………

否定しないのか?

うるさい!


九尾に言われ、一瞬その考えが頭を過った。
そう…かもしれない…。カカシ先生を疑ったオレではなく、誰か別の…ヤマト隊長とかの所に…。
ふるふると自分の考えを否定するように激しく首を振る。
ダメだってばよ。カカシ先生を疑うような事考えちゃ。だからカカシ先生怒ったってば。同じ過ちは繰り返さないってばよ。オレはカカシ先生を信じる…ってばよ…?
自分はもっと懐のでかい人間だと思っていた。なのに、心に浮かんでしまう疑念。カカシを信じてるのに、どうして…。
カカシはナルトは若いから、と言った。これからたくさんの出会いがあるからと言った。
いつもいつも別れる事を考えていた。
けれど、自分の目に映るのはカカシただ一人。
だって仕方ないってばよ。カカシ先生を狙ってた奴は五万といるってばよ。その中には上忍だっていた。オレはそんなかで落ち着いて構えてなんていられなくって、強引に先生をものにした…。
誰かに取られたくなかったから。
オレのものになってもカカシ先生はもててたってばよ…。
だから婚姻届なんて書いて確約取り付けて。
それなのに、オレは先生を疑って、傷つけて…。
先生が帰りたがらないのは当然かもしれない。


「せんせぇ…頼むから、帰って来てくれってばよ…」

ナルトの呟きは夜空へと消えていった。










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