夫婦喧嘩 12
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大名屋敷に近づく頃、辺りはすっかり闇の中。街灯がポツリポツリと辺りを照らしている。
カカシが来る前に夕立でもあったのか、道がぬかるんでいた。
そこへ後から馬車が駆けてくる。おそらく大名の乗った馬車だろう。
今回の極秘の護衛の人物。依頼人はその乳母。
大名、シンの小姓が相次いで死ぬという事件が起こっている。
その小姓達は親のいない天涯孤独の身の上の者ばかり。死して悲しむのはせいぜい共に働いていた者だけ。
死因は不明。詳しい事は調べていないが、毒に因るものではないか。
今はまだ小姓が狙われているだけだが、何時なんどきシンが狙われないとは限らない。シンをそれと判る事なく護衛することと、犯人の割り出し。出来れば小姓として身の回りの世話が出来る人物が望ましい。
これが今回の依頼の内容である。
さて、どうしたものか…。
カカシが考えながら歩いていれば、後から来た馬車が路地を曲がる。正門は真っ直ぐ前の道にあるからそのまま行くものと思っていたカカシは慌てて避けた。
が、ぬかるみに足を滑らせ不様に転んでしまった。
ちょっとこれは忍としてどうなのよ…。
自分が情けなくなるカカシであった。
ため息をついているところへ馬車の中から人が降りてカカシの元へやって来る。
件の人物より若いから、乗っていたのは大名ではなかったのだろう。


「すまない。父上の元へ急いでいたものだから、危ない目に遇わせてしまった。怪我はないか?」
「はあ…大丈夫です…っ!」


カカシは立ち上がろうとして足の痛みに顔を少し歪めた。転んだ時に捻ったらしい。


「や、これは済まぬ。手当をするから、屋敷においでなさい」
「いや…それは…」


カカシにしてみれば渡りに船だが、ここは一旦断るのが筋だろう。
若い男は首を振る。


「私が注意していれば、そなたは怪我などしなくてすんだのだ。済まなかった。せめて手当くらいさせてもらえぬか?」


言い方は柔らかいが、有無を言わせぬ強さがそこにはあった。きっとそれなりの地位にいる者なのだろう。
カカシは仕方ないなという風を装って頷いた。
ら、カカシはいきなり横抱きに抱えれ馬車に入れられてしまった。


「ちょっ! 汚れるから!」
「気にする事はない。洗えば済む事だ。それより、そなた、その首にかけているものは何だ?」
「これ? 御守り…母さんの形見なんだ…」


実は依頼人から渡された物だった。これを持っていれば木の葉の方だと判るから。もし何か聞かれたらこう答えてくれ、と。


「そうか…」


それきり男は黙ったまま。馬車は屋敷の中へ入って行った。
入口に横付けされると、カカシは再び横抱きにされ、屋敷の中へ入って行った。


「ばあや! ばあや!」


はいはいと奥から顔を出したのは初老の婦人。カカシ達を見て目を丸くしている。


「まあ、泥だらけではありませんか。一体どうなさったのです?」


驚きつつも、その女性の対応は落ち着いていた。なかなかに細身ではあるが、貫禄のある婦人であった。


「私が急いでいて怪我をさせてしまった。済まぬが、湯浴みをさせて手当してくれぬか?」
「承知致しました。申し訳ありませんが、こちらへ連れて来て頂けますか?」


二人はさっさと浴室へ向かう。ばあやと呼ばれた女性は周りの女官達に指示を出している。
直ぐに浴室に着くと女官達が服を脱がしにかかり、カカシは慌てた。


「うわっ! ちょっ! 自分で脱げるから!」
「何も恥ずかしがることはあるまい?」


クスクスと男はカカシと同様服を脱がされながら笑っている。
カカシは真っ赤になりながら首を振る。とてもじゃないが、女性の前で裸になぞなれない。


「お前達、下がれ。彼は恥ずかしいらしいから、後は私がやろう」


躾が行き届いているのだろう。女官達は静かに頭を下げると出て行った。
その後カカシは男に脱がされ、浴室に入れられてしまう。男も一緒に入って来る。


「あの…何で一緒に?」
「そなた一人では洗えまい? 私が洗ってやろう」


この強引なところはナルトみたいだ…。
カカシはふとそんな事を思う。
なんて事だ…。任務先に来てまでナルトの事を想うなんて…。今は忘れなければ。任務の事だけを考えろ。
カカシは己を叱責する。


「どうした? 痛みが酷いのか?」
「あ…いえ…」


大人しくなったカカシの顔を覗き込みながら男は問うた。


「そなた、父好みの綺麗な顔をしているな。名は何という?」
「え?」
「名前。名がないと呼びづらいだろう?」


しまった。名前なんか考えていなかった。どうしよう?えーと…あ!


「ん?」
「ない…」
「え?」
「名前なんかない。好きに呼んでくれて構わない」
「何でだ?」
「どうせ名前教えたって、誰もオレの名前なんか呼ばないでお前って言うんだ。名前なんかいらないじゃない」
「…そなたが出会ってきた者達はそうだったのかもしれぬが、ここでは違う。ここでは皆名前で呼ばれる。私もそなたを名前で呼ぼう。だから、教えてくれぬか?」










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