夫婦喧嘩 11
12p/30P




カカシはふらふらと自宅に戻った。
任務に出る前に心の準備をする必要があった。
ベッドに腰掛け、もう一度任務書に目を落とす。
何て任務だろう…。
ナルトは結局自分を疑ったまま。いや、こんな任務を割り当てるくらいだから、ナルトの中では決定事項なのだろう。
オレはそんなに……。いや、もうやめておこう。いつまでも未練たらしくしても仕方ない。
任務から帰って来たら離婚の話になるだろう。すぐに話さないのはナルトなりの優しさだろうか…。オレに覚悟をさせる為の期間。そうなのだろう。
カカシはベッドに並んだ枕を見つめた。
ここで幾度となく愛し合ってきた。逞しくなった腕に抱かれ眠りについた。
それももう終わった。
ナルトはオレに愛想を尽かしたのだろう。
だから、この任務。もしかしたら嫌味も含まれているのかもしれない。
カカシは大きくため息をついた。その息が震えている。気がつけば、左目から涙が流れ落ち額宛てを濡らしていた。
オレはずいぶんと女々しい奴だったんだなと苦笑する。
いや、昔からか…。
ミナトの時もよく一人で泣いていたなと思う。
カカシは首からチェーンを外す。ドッグタグと一緒に下げられた指輪。肌身離さず身に付けていたけれど、それも最後。カカシは指輪に口づけるとギュッと握りしめ、それから枕元に置いた。
離婚はナルトが決めた事。ならばオレはそれに従うまで。前からそれは決めていたこと。
ちゃんと別れてあげるから。お前を困らせる事はしないから…。
だから……この任務、せめて別れてから与えて欲しかったよ…。
カカシは枕に顔を伏せる。
ナルト…お前はもうオレの事は信じてないんだろうが、オレはまだお前を愛しているよ…。
カカシは暫く枕に顔を埋めていたが、やがてゆっくりと起き上がり寝室を出て行く。

次に向かったのは──。




コンコンとノックすれば「入れ」と声がする。
失礼しますと中に入れば、どうした?と怪訝な顔をされた。


「すみません、綱手様。この任務でお願いしたい事がありまして」
「お願い?」
「はい」


任務内容を聞いた綱手は驚きを隠せないでいた。
大名絡みの任務。綱手はナルトからこの任務について相談を受けていた。
まさかナルトがベタ惚れのカカシにこの任務を与えるとは思ってもみなかったのだ。
だが、火影としてはもっともな選択に思う。ナルトも火影として成長したということか?あまり納得出来ないが…。


「カカシ、お前はいいのか?」
「火影が決めた事ですので…」


カカシも任務だと割り切っているのか、その表情からは何も窺えない。
本当は辛いだろうに。
いくら任務とはいえ、男とセックスしなければならないだろう。しかも受け身にならざるを得ない。
ナルトという愛する者がいる現在、その愛するナルトから言い渡されたこの任務が辛くないわけがない。
それでも、木の葉の忍として任務を全うする覚悟を決め、綱手の元を訪れたのだろう。


「それで? 願い事とは何だ?」
「はい、チャクラの増量剤を頂けないかと」
「増量剤? 何でまた…」
「今回は変化しないといけないですから。オレのチャクラだと任務中に解けてしまいそうなんで」
「ああ…。何なら私が掛けてやろうか?」
「…ナメクジにはなりたくないんですが…」
「似合うと思うがな」
「綱手様…」
「冗談だ。それに変化するならお前の若い頃の姿の方がいいな」
「若い頃、ですか?」


綱手はカカシに資料を渡しながら説明した。
カカシの母、父サクモの双子の姉ミノリが、任務先の大名の異母妹の母の身代わり任務を幾度か受けていたという。それほど似ていたのだ。
そして、その異母妹は生みの母にそっくりだという。
やがてその異母妹は子を身籠り出産した。
だが、赤子が突然いなくなり、その子は男子だったこと、また兄との不義の子という噂もあり、暗殺されたのではないかと囁かれた。
乳母も赤子も行方知れずのまま。
一説には乳母が赤子を守る為に連れ去ったのではないかと言われた。事の真偽は分かっていない。いずれにしつも16年前の出来事である。


「ペイン戦の時に資料をほとんど紛失してな、解るのはそれぐらいだ。すまんな」
「いえ、それだけでも解れば充分です」


カカシは綱手から渡された資料に目を通す。それには綱手の説明より少しだけ詳しい事が書かれていた。
カカシが読み終わる頃、綱手はカカシに術を掛けた。あの自来也が潜入し、敵をカエルに変化させてしまった術と同じ。ただ、カエルではなく、16の少年の姿ではあったが。


「つっ、綱手様!?」
「お前自身が変化するよりは、術に掛けられた方がチャクラを消費しなくてすむだろう? ま、優しい親心だとありがたく思いな」
「はあ…」
「それと解毒剤を幾つか用意してやる。お前の身体は毒慣れしてるから大丈夫だとは思うが、万が一ということもある。持っていけ」
「…はい、ありがとうございます」


解毒剤を持ち、古着屋で服を一着購入し着替えた後、カカシは里を後にした。向かうは大名屋敷。
向かいながらカカシは潜入方法を考えていた。








次#
*前


目次



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -