夫婦喧嘩 10
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陽もすっかり昇り、アカデミーに通う子ども達が元気に駆け抜けて行く。そんな時間。
カカシがいつものように本を広げると、コツコツと窓をつつく音がする。見れば小鳥が窓をつついていた。
火影からの式。
任務の呼び出し。
カカシは小さなため息を一つ吐く。まだナルトに会いたくないという気持ちが残っている。
ナルトはまだ誤解したままだろうか?このまま別れる事になるのだろうか?
別れたくない。
そう思う。だが、ナルトが別れる事を決めたのなら、何を言っても結果は一緒だろう。
また、失うのか…。
失うのが怖くて、喪失の痛みに耐えられる自信がなくて、大切なものを作らないできたのに。
自分は持ってしまった。
作ってしまった、かけがえのないものを。
火影から言い渡されるのは、任務か別れか──。あるいは両方か。
カカシは、もう一つため息をついて腰をあげた。




一方、ナルトは仲直り作戦実行だってばよ!と意気揚々としている。カカシが悲壮な事を考えているとは、露ほども考えてはいなかった。
この任務を言い渡して、夜にはラブラブだってばよ、とにやける顔を繕うことさえ出来ない。
そんなナルトを見て、周りの者達も苦笑い。だが、これで夫婦喧嘩のとばっちりを受けずに済むのだと、ほっと胸を撫で下ろしていた。
ナルトはカカシに言い渡す任務の用紙を山積みになった書類の上に置く。そしてカカシが入って来るのをソワソワしながら待っていた。


「ったく、あんたったらカカシ先生の事となると落ち着きなくなるんだから」
「んなコト言ったって、サクラちゃん…。もうすぐカカシ先生が来るんだぜ? ようやく愛しい奥さんに会えるってのに、落ち着けってのが無理だってばよ」
「しょうがないわね、きちんと仲直りしなさいよ?」


サクラが窓を開けると心地よい風が入って来る。ナルトは用紙が飛ばないようにカエルの小さな文鎮を乗せた。


「あ、来たわ、カカシ先生」


窓から覗けばのんびりと歩いて来るカカシの姿が見える。ナルトはイソイソと椅子に座り、カカシが入って来るのを待ち構えた。
間もなくカカシが入るという時、窓の外でギャギャギャーという猫のケンカする声が聞こえたかと思ったら、二匹の猫が飛び込んで来た。と、二匹の猫はナルトの頭と書類の上を踏み潰し、デスクの前で睨み合う。
フーッ、シャーと互いに嵐を吹いて、再び取っ組み合いになると思われたその時。二匹はピタリと動かなくなった。


「何やってるの?」
「カカシ先生!」


呆れ返ったカカシの声。
さもあらん。執務室にいた者達は、たかが二匹の猫に驚き固まっていたのだ。
カカシは猫達に金縛りの術を掛けたのだった。


「だって、オレの頭をグシャッって…」
「だからってね、固まって動けないってのは忍としてどーなのよ?」
「う…、そーだけどさあ。飛び込んで来たのが猫だったから、気が抜けたつーか…マダムしじみの…」


カカシは猫を捕まえながら成る程なと思った。あのマダムの猫なら乱暴な事は出来ない。が、これはどう見ても野良だ。飛び込んで来たのが小さな(といっても成猫だが)猫だったから、気が弛んだんだろう。それにしてもとため息が出る。
猫をそれぞれ違う方向に向けて外に出し、窓を閉めると術を解いた。
猫達はそれなりにパニックになっていたようだが、屋根の上を走ってどこかに行ってしまった。
それを見送って、カカシは部屋に転がっているカエルの文鎮を拾いナルトに手渡す。


「あのね、ナルト。いくらここが執務室で危険が少ないとはいえ、お前油断し過ぎ。あんな猫に驚いて動けないなんてあり得ないでしょーよ。仮にも火影なんだから「先生! ごめんってばよ。反省してます!」


説教モードに入ってしまったカカシを遮り頭を下げた。
絶対説教は長くなる。そうなると仲直り作戦だって上手くいかなくなるってばよ。とナルトは焦ったのだ。そして慌てて書類の一番上に置いておいた任務依頼書を「任務だってばよ」と、カカシに差し出した。
その任務書は、先ほど猫にやられた為が少しシワになり、小さな爪跡が残っていた。
全くと小さく言いながら受け取るカカシ。
その依頼書に目を落とし、今度はカカシが固まった。内容を読んで驚いたのだろう。目を丸くしてナルトを見る。
ナルトは嬉しそうにニコニコと笑っている。
もう一度カカシは依頼書を読み直した。
次に顔を上げた時には、何の感情も読み取れないほど無表情だった。


「了解」
「頼んだってばよ」


ナルトはニシシと悪戯が成功した子どものように笑っている。
カカシは暫しナルトの顔を見つめた後、くるりと背を向け、何も言わず執務室を出て行った。
カカシの気配が遠ざかると、ナルトはよっしゃっ!とガッツポーズを取る。
任務内容を読んだ時の驚いたカカシの顔。まさか自分がDランクの任務を受けるとは思っていなかった事が伺えた。

(そりゃそうだよな。いっつもAランクとかSとか特Sだもんな…)

内容も内容だしなと苦笑いするナルト。でも、仲直りする為の準備だってばよ、ごめんってばよ。と心の中でカカシに謝るナルトだった。









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