夫婦喧嘩 9
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『センセーはオレ以外にも男いるってば?』

『そいつと寝た?』


カカシの鼓膜にナルトの言葉が渦を巻く。
ナルトを見れば、怒りを滲ませ己を睨んでいる。
ナルトはオレを疑うのか?
どうして?
腹が立った。と、同時に悲しくもあった。
確かに里には自分の良くない噂が流れていることは知っている。だが、ナルトはそれを信じてはいなかった筈だ。それが何故…。それを信じたというのだろうか…。
ひと月前、ナルトは九尾に自分を抱かせようとした。オレがナルト以外の奴にも抱かれるか試そうとしたのか…?
その頃から、ナルトはオレを疑っていたのか? 任務に行く前に顔を出さなかったのも、そのせい?
だから帰って来た時、不機嫌な顔をしていたのか?
カカシは自分を信じてもらえなかった事がショックだった。
自分は二股かけるような男だと、誰にでも脚を開くような尻軽な奴だと思われていたのだ。
ナルトは信じろと言ったのに。でも、オレの事は信じてなかったのね。


『だから、指輪も外したのか?』


してるよ、ナルト。
タグの裏側で肌に直接触れるように。隠れて見えないだろうけど、いつも肌身離さず付けているよ…。
オレだって、お前と一緒に居たいよ。
でも、お前は火影じゃないの。ようやく夢が叶って火影になれたんじゃないの。
オレなんかの所に来てて仕事を疎かにしてる、なんて噂されたらどうするの?
オレは何を言われても構わないけど、お前にとっては致命的でしょ?
お前、火影の地位から降ろされちゃうかもしれないんだよ?
お前はまだ若い。これからやりたい事だってたくさんあるだろう?
火影じゃなきゃ出来ない事だってあるんじゃないの?
なのにお前は……。
それでも、オレに早く会いたかったと言われた時は嬉しかったよ。
オレはお前みたいに素直じゃないから、とても口に出してそんな事言えないけれど。
会いたかったのは、オレが好きだから? それとも、オレが浮気してるか確かめたかったからか?


バタバタと、気配も消さずナルトがやって来た。
トラップの張られた結界を、そうとは気づかずにナルトは解いた。
そして幻術に掛かってしまったのだ。
傍に居るのに見えない。気配すら判らなくなってしまう。
昔からナルトは幻術が苦手だったから。きっと掛かった事にもなかなか気づかないに違いない。
今は会いたくなかった。
会ってしまったら、きっと泣きながらナルトをなじってしまう。
どうして信じてくれないんだ。オレにはお前以外いないというのに、と……。
そんなみっともない事はしたくなかった。ナルトの負担になるのも嫌だ。
もう少し落ち着いて話が出来るようになるまで、時間をちょうだい。
そんな事を願っていると、再びナルトの気配がした。
カカシは気配を断ち、息をも殺して布団にくるまっていた。
どうか幻術が解けていませんように。
祈りながらナルトが帰るのを待っていると、

『カカシセンセェ…』

ナルトが頼りなげな小さな声でカカシを呼んだ。
その声にヒクリと身体が揺れる。一瞬気配が漏れたかと身体を固くするが、どうやらナルトには気づかれずにすんだようだ。
ナルトが出ていく。カカシはナルトの気配が遠ざかるまで息を詰め、身を固くしていた。
気配がすっかり消えると、カカシはゆっくりと息を吐き、身体の力を抜いた。
何もない天井を見つめ、小さな声で謝罪した。


「ごめんね、ナルト…。今は会いたくないんだ…」





翌日、カカシは一人でのんびりと過ごした。まだナルトに会える程、心の整理はついていなかった。
考えても思考は千千に乱れ、心を掻き乱す。
そんな心を落ち着けようと散策に出た。
休日の里内をゆっくり歩く。外ではまだまだ小競り合いはあるとはいえ、里は至って平和だ。
人々は笑い合い、子ども達は賑やかに楽しそうに遊んでいる。
光に満ちた里。
彼の人もかつてこの光溢れる里を目指し戦った。途中夢破れてしまったけれど、それを息子のナルトが引き継いだ。
ねぇ、ナルト。この平和はお前が仲間と共に戦って勝ち得たものだ。それはお前にとってかけがえのない財産となったろう?
その中に、オレはもういらない?
だから九尾に抱かせようとしたり、浮気してると疑ったのか?
……もしかしてオレが嫌になって、別れる為の布石なのか?
だったら、そんな回りくどい事なんかしなくていい。別れたかったら、別れたいと言えばいつだって別れてあげる。
その覚悟はちゃんと出来てるから…。







だから……


















疑わないでくれ……。





















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