夫婦喧嘩 7
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慰霊碑から火影岩を見上げる。四代目の顔岩をじっと見て、ため息が出た。
自分は四代目のようには愛せない。カカシを包み込み、幸せにしたいと思っていたのに。
オレを信じてと言った。カカシは信じると言った。なのに、自分はカカシを信じてなかった。
カカシを疑った。
怒った顔なのに、どこか悲し気に見えた。
当たり前だ。カカシは悲しかったんだろう。疑われた事に対する怒りもあったろうけれど。
でも、カカシは何も言わなかった。いつもそうだ。自分の中に溜め込んで、我慢して。
もっと自分の感情を素直にぶつけてくれたらいいのに。
もっと甘えてくれたら…、いや、自分がこんなんだからカカシは甘えられないんだ…。
カカシを信じきれてないから…疑うような自分だから…。


「センセェ…、ごめんってばよ…」


ナルトの小さな呟きは風に乗って消えていく。


「会いたいってば…」


このままカカシに会えないなんて嫌だ。
ナルトは大きく息を吐いて、それからカカシのチャクラを探った。
優しく柔らかみのあるそのチャクラは、確かに里内に感じられる。ナルトはもう一度上忍寮へと戻って行った。
結界を解いたカカシの部屋はそのままだった。
カカシの姿も当然のようになかった。


「カカシセンセェ…」


縋るように小さく呟くと、ゆらりと空気が揺れたような感じがしたが、一瞬の事で気のせいかとも思う。
もしかしたら、もう火影邸の部屋に戻っているかもしれない。見つからないカカシの姿に不安を覚えつつ、小さな期待を胸に屋敷に戻った。
が、やはりカカシの姿は見えなかった。
完全に避けられてる。
ナルトはようやく悟る。カカシは追跡のプロだ。そんなカカシが容易に己の居場所を悟られる訳がない。
もしかしたら、このままカカシとは会うことなく別れる事になってしまうかもしれない。
ナルトは事の重大さに気づく。自分は何て事をしてしまったんだろう。
愛するカカシを傷つけた挙句、謝る事も出来なくて。
どうしよう…。
ナルトは軽くパニックに陥った。カカシと別れるなんて出来ない。そんな事になったらきっと自分は死んでしまう。生きてなんかいられない。
もし、自分が死んだらカカシはどうするだろう? こんな自分を疑うような男の事なんかさっさと忘れて可愛い女の子と結婚するかもしれない。
もしくは新しい男と…ヤマト隊長とかと恋人になるかもしれない。
イヤだ嫌だ!
そんなの許さないってばよ!
バクバクと心臓が鳴り出し不安と心配とで身体が震える。いても立ってもいられなくなって部屋から飛び出し、走り出した。
執務室に辿り着くと、サクラが驚いてナルトを見る。

「ナルト!? どうしたの?」
「先生、女の子と結婚して、ヤマト隊長と恋人になっちゃうってば…!」
「は?」
「オレ、オレ…どうしたらいいってば?」
「ちょっと、落ち着きなさいよ」


息を切らし、滅茶苦茶な事を言うナルトをソファに座らせ、事情を聞くサクラ。

「ほら、深呼吸して…。落ち着いて、最初から話してくれる?」
「先生探して…、でも見つからなかったってばよ…。カカシ先生、本気で隠れてるってば。このままじゃ先生女の子と結婚しちゃってヤマト隊長と恋人になっちまうってばよ…」
「ナルト、途中経過が抜けてる。何で隠れたら女の子と結婚で、ヤマト隊長と恋人なのよ?」
「だって、別れたら…結婚だってばよ…」


一体どういう思考回路をしてるんだ? サクラは首を傾げる。
さっきは何も言わずカカシが出て行ったと聞いたが、別れて女の子と結婚するとでも言ったのだろうか?
ヤマト隊長の事は一緒に帰って来た事を引きずっているのだろう。


「あのね、まずは何で《女の子と結婚》が出てくる訳? 先生がそう言ったの?」
「先生は何も言ってないってばよ…」
「じゃあ結婚も何もないじゃない。ヤマト隊長のことは?」
「…仲良かったってばよ…。一緒に笑ってた…」
「まあ、元暗部だしね。仲はいいでしょうけど、それだけだと思うわ。大丈夫よ、カカシ先生はナルトの事が好きよ、多分」
「多分…?」
「あは、ごめん。多分じゃなくて、絶対。だって、カカシ先生はナルトを愛してるから、ナルトと結婚したんでしょ?」
「うん…多分…」
「何よ、情けないわね。だったら何でカカシ先生はあんたと結婚したと思ってる訳?」
「…オレが迫ったから…」
「迫られたからって、それだけでカカシ先生が結婚するわけないでしょ? ナルトの事を愛してるから結婚したんでしょ?」
「…うん…」
「だったら、カカシ先生を信じなさいな。カカシ先生の事だから、あんたに押し切られたような感じなんでしょうけど、先生は好きでもない人と結婚なんかしないわよ。ナルトを愛してるから婚姻届にも署名したんだと思うわ。でなきゃあの先生が指輪まで受け取る筈ないもの」


サクラに言われて気づく。
そうだってばよ。あのカカシ先生が結婚してくれたんだ。恥ずかしがりで臆病な先生が勇気を出して一歩踏み出してくれたんだ。
その先生の愛情を疑うなんて!
ごめんってばよ…、先生…。









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